詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

■阿部嘉昭さんの新詩集 『日に数分だけ』(響文社) 出版!!

阿部嘉昭さんの『日に数分だけ』(響文社)

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「みずしぼりという/からくりをひろった/かめらのたぐいだそうだ」(みずしぼり)という詩句を読み、自分が小6の時、写真部所属だったこと、暗室や引延機、液体の酸っぱい匂い、20年以上忘れていた記憶を鮮明に、揺さぶられた。「ひびわれをおしむうち/ひとみにひびのはいるのも/みるのさだめだろうが」(みずしぼり)。現像に失敗して、光の線を描いてしまった印画紙を何年も大切にしていました。
 表紙も帯も、めちゃくちゃかっこいい。Joy Divisionや、New Orderのフロッピー・ディスクをイメージしたシングルジャケットのような趣き。本のサイズも素晴らしい。会社の机にビジネス書と一緒に立てても違和感がない。カバーの高さが絶妙で「日に数分だけ」の「に」が見え隠れする演出に心くすぐられる。カバーの色が暗くてバーコードが読みにくそうなところが素晴らしい(実際は読めます、やってみました)。実用的なものが実用できない、という現実が至る所に潜むし、詩集が実用的である必要はない。しかし、日に数分だけ休憩し、24時間体制で働いている私にとって、この詩集を読む経験から、今現実に直面している困難な問題解決のヒントが無意識層に流入され、熱い数分が、その他のあらゆる数分に影響を及ぼしていることに心より感謝申し上げます。

石川郁夫先生の「文学講座」 特集:安部公房

■10月25日(木)13:30~15:30
 まちなかぶんか小屋(旭川市7条通7丁目32)にて行われた石川郁夫先生の「文学講座」に参加させて戴きました。
 当初、7月26日に予定されていたのですがその日は石川先生のご体調すぐれず、延期された振替講座でした。
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・昭和26年、「壁-S・カルマ氏の犯罪」で安部公房芥川賞を受賞。小説家石川淳が強烈に推した。
石川淳は小説作法を完全に意識した作家であり、《文が生まれ、その句点までの文が非常にリアリティ豊かでイメージが豊富なものであれば、次のイメージを呼ぶだろう。非現実が新しい現実に生まれ変わっていく・・・》こうした手法の認識は、安部公房の作品にもあてはまる。
・「明らかに俺の家ではないものに変形した」「そしてついに俺は消滅した・・・変身譚『赤い繭』の朗読。安部公房の多くの作品に共通する大事なテーマは《存在の根拠が失われている人間》。存在の有りようを問い続けた。
カフカの「変身」のグレゴール・ザムザは、毒蟲になってしまって会社に行けなかったら家族を養えずどうしよう・・・と、毒蟲になった後も「現実の心配」をしている。最後までグレゴール・ザムザである。中身は変わらない。しかし、両親と妹は変わる。最初は蟲に食べ物を与えたりするが、だんだん早く死ねばいいのにと思う。毒蟲が林檎で死ぬと、家族がほっとした笑い声でピクニックに出かけてしまう。
安部公房の変身譚はもっと明るくて軽い。安部公房の主人公はグレゴール・ザムザのように悩んだり苦しんだりしない。最初から自我が失われたところにたっている。そうでありながら、カフカよりもっと深い悩みや苦しみを書く啓蒙作家である。
・人間以外のものへの変身。『デンドロカカリヤ』では、顔がめくれると植物へ変形してします。「顔」とは「名前」と同様に存在の証である。コモン君は顔がめくれることに抵抗する。花田清輝はこの作品が、存在の根拠を奪われる植物的状況に拒絶していると言った。
・カルマ氏は朝起きたら、自分の名前を想い出せない。社会的な存在権を失っている。免許証も保険証も、自分の名前のところだけ真っ白である。
・『魔法のチョーク』のアルゴン君は、チョークで描いたものを現実化することで、彼なりの小宇宙を無の壁に獲得する。しかしそれは実体ではない。
・砂漠=廣野=壁(砂をかためたもの)=無限の創造性=無
・『壁』の帯に石川淳は、壁は行き止まりではなく、ここから運動がはじまる。ここから何かうみだされる。人間の生活がはじまると書いている。
・『壁』の中の『バベルの塔の狸』では、狸に影を食べられた人間は透明人間になった。しかし、目だけが浮いていた。
・戦後、多くの人たちが価値観の転換を強いられた。
・『砂の女』は、砂が流動する→流動そのものが砂である、に変わる。主人公は囚われの状況から脱出する手段を得たが。脱出を選ばなかった。
・自我の挫折。近代的な自我が無力であると思い知らされた戦後の日本に、想像の運動を繰り返すことで立ち向かっていった。
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■石川先生の『赤い繭』『魔法のチョーク』の朗読、素敵でした。最初は4人でしたが、どんどん人が入ってきて、10人くらい?満席でした。小熊秀雄賞実行委員会のこと、お話戴きました。ありがとうございました。
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2018-10-27.

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旭川詩人クラブより、2018年「詩めーる旭川・第16集」が発行され、拙詩「贈り物」掲載戴いております。
会員17名が作品とエッセイを寄稿。東延江さんにあとがきで書いて戴いている「新しい仲間が増えました」とは私のことか。心より、御礼申し上げます。
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■11月6日(火)13:30より関連イベントが旭川文学資料館にて行われます。また、同館にて11月22日(木)まで、詩画展開催中であります。皆様のご来場を心よりお待ち申し上げます。

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「 贈り物 」
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この話をするといつも
お客様に驚かれます

私たち社員に手帳が配られていて
リフィル(用紙)も使いやすいように
ご自分で考案されて
印刷会社に特注している

いやー、楽しいなあ・・・
今はこうだけど、
将来はこうしたい
よし、見てろよ、やるぞ
仲間を集めて夢を語れ
わくわくすることをびっしり書け
学びたいことがあれば現地へ
飛行機にでも乗っていけ

パソコンやスマホを使ってもいいが
思いついたら手で書け
パソコンを作った人は
設計図をペンで書いた

一番わくわくするのは
あなたから教わったことのリストを
この手帳に書くときです
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■「文芸対談Ⅱ 吉田一穂をめぐって」 対談 吉増剛造氏 × 酒井忠康氏 

■10月21日(日)旭川から高速バスで札幌へ(乗り場が駅に変わっていた…)
荘厳なる北海道立文学館特別展示「極の誘ひ」へ参り、14:00より講堂にて行われました「文芸対談Ⅱ 吉田一穂をめぐって」吉増剛造先生と世田谷美術館館長の酒井忠康先生によるお話を聴講、なんと受講者180名にものぼり、道内の名だたる詩人の方々のお姿もありました。
最前列でノートを取りながら・・・お二人のご発言はほぼ書きとめたのですが、印象につよく残ったことのリストです。
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・平原一良理事長によるご挨拶 講師のご紹介。20年前にも一穂展が行われた経緯。
・吉増先生より、生原稿を見たときの驚き。マル「。」が右脇ではなく真下、完全に真ん中にある。
 (たった今、我々が発見した!)
 このマルの問題は、「美」の問題。極みというか垂直、ものすごくキレイ。最弱音(ピアニッシモ)。
・「樹」原稿をプロジェクター映写。文章の中に突然出てくる「。」の信号。
・一穂の朗読録音について。マイクを前にしたあの時代の人の特有の緊張感。
西脇順三郎が吉田一穂に「僕が評価するのは君と朔太郎だけだ」と言ったこと。
井上輝夫さんが、若い頃からめちゃくちゃ一穂ファンだった。
酒井忠康先生が岡田隆彦さんに「版画はオレのテリトリーだから入るな」と言われ身を引いた。
 「お前は詩を書かないから安心できる」と言われた。
・吉田一穂の弟子である加藤郁乎さんが美術手帖に書いた若林奮論はすばらしかった。
酒井忠康先生はある人に「吉田一穂の故郷の男だ」と紹介され、加藤郁乎さんに拝まれた。
・母のルビの問題。「ディスタンス」という距離の概念。
 カタカナはひらがなと違って時間が止まる。このカタカナ性はピアニッシモ
 原民喜は原爆が落ちたときの音をカタカナで「シュポッ」と書いた。
・「考えるとは一言一言つまずいていくこと」(北川透
 一言一言つまずいていく、そういう距離でもある。常に遠のいていく風景「・・・・・・」
 一行空きの凄まじい空白が語っていく。
・「捜り打つ」盲目の座頭市がピアノをさがしているよう。
・古い=赤い、平=岩。古平は赤い岩。その手前に白い岩の白岩町。
 冬は陸の孤島だった。ここに石を持ってくるには舟で運んできた形跡がある。
・吉田一穂の「等価性」。ボードレールマラルメのマネをして書くのではなく、
 「等価」である。西欧に読者がいたと仮定して、詩の普遍性を獲得する。
 西欧の詩人たちと比べて、俺たちにもできるんだ。
 「極み」=「等価性」これを目指さないのは詩人じゃない。
・作品「少年」人と神様と獣の中間の美しさ。こんな詩で極めた人はいない。
西脇順三郎のような「深沢の女将さんの腰巻が干してある」といった
 田舎の可笑しみは吉田一穂には書けない。書けなくていい。「少年」のほうがいい。
・吉田一穂の父は、一穂に才能があったから絵描きにはしなかった。才能があれば努力しない。
・吉田一穂の筆跡には、《絵を断念した不思議な霊気》がある。
・部屋に何も本がなくて、一冊だけ置いてあるということがあった。
 それはヒュームであり、パスカルのときもあった。(一種のスタンドプレー?)
・極みの誘いの中にある芸術の根源に通じる舞踏の姿勢。人、神、獣の中間。
・跼天蹐地《高い天の下でからだを縮め、厚い大地の上を抜き足で歩く意》
詩経の中にある「臥す」。土方巽の舞踏の原点。「臥」の一文字に宇宙の極みを見ている。
・筆跡・生原稿について コンピューターの時代でも違う残り方はする。
・平原一良理事長より、村山塊多、小杉放庵のこと。   
*

■質問の時間の最後で、誠に恐縮ながら柴田が発言申し上げ、
お話の中で紹介された、小沢書店の吉田一穂全集(昭和54年)を持参しておりました。
監修が西脇順三郎金子光晴。編集に加藤郁乎、鷲巣繁男、吉田八岑等のお名前があり、装填が加納光於氏でした。その本の美しい装填について、酒井先生に伺い、なんと月報(付録)には、吉増先生が二つの詩作品を「空洞」というキーワードで論じておられて、それは中心に打たれた「。」のことなのか、筆跡にある《絵を断念した不思議な霊気》や、「等価性」に通じるのでしょうか、という質問を恐れながらさせて戴き、吉増先生より良い質問であったとの御言葉を賜りましたが…しかし加納光於氏の頁が吉増先生の松涛美術館の図録にあったことに気づいたのは旭川に帰った夜で、『朝の手紙』や『わたしは燃えたつ蜃気楼』の装丁、『わが悪魔祓いのために』の扉絵を手がけていたと認識せずに質問してしまった、、勉強不足を猛省しつつ、素晴らしい時間を過ごさせて戴いたことに感謝の限りです。
そしてなんと、有難く恐縮の限りですが、今回のご対談の詩誌『フラジャイル』への収録を前向きにご検討を賜り、ご承認を戴けそうとのこと。誠に有難う存じます。急ぎ本稿作成に着手致しております。新たなる吉田一穂研究の契機ともなり得る、重要かつ驚くべき内容になります。心より御礼申し上げます。
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■11月4日(土)のチラシも置かれておりました。

詩の朗読会「一穂への遥かなる最弱音(ピアニッシモ)」

 道内の詩人たちがお気に入りの一穂の詩と
 その詩にちなんだ自作の詩を朗読します。
 開催日時:2018年11月4日(日)13:30~15:30
 会場:当館講堂
 協力:北海道詩人協会
 申し込み方法:要申込・10月19日(金)9:00より電話にて受付。
 (定員60名、先着順、聴講無料)
 皆様のご来場を心よりお待ち申し上げます。
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2018-10-21.

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「 顔 Ⅸ 」
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見えないからこそ見えるのか

見えないあなたが縫った赤い長襦袢
美しい仕上がりでした

見えないものは見えぬのか

お母さんは目が悪くて買い物に行けなかった

裾が短すぎて 靴下なくて 寒くて 笑われました
友だちは皆温かい服を着て 笑顔でした
寒さを知られたくなくて 笑顔で 強気でした

見るに見かねたおばあちゃんがたまに買ってくれました

友だちは可愛いエプロン 家庭科の時間していました

服も靴もきつくて 靴下なくて裸足で
困っていると言えなかった

見るって何? 見えないからこそ見える
この世のどこにも存在しないほど素敵な服
素敵な靴を履けないからこそ描ける
将来の夢はデザイナー
制服になるまで服のない子どもでした

目の見えないお母さんが縫ってくれた
赤い長襦袢 誕生日に突然贈られた
二十歳のサイズに驚くほどぴったりでした

見えないふりして 
思い描くことを通り越して
ずっと見ていてくれたと気づく
そのときの
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2018-10-19.

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■「青芽」から「フラジャイル」へ~ゲストを招き、詩の朗読会(あさひかわ新聞)

■10月16日(火)発行の「あさひかわ新聞」にて、大きく掲載戴いております。誠にありがとうございます。

「青芽」から「フラジャイル」へ
~ ゲストを招き、詩の朗読会 ~
「多くの人に詩のまち旭川を伝える」
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■「『青芽』から『フラジャイル』へ-詩のマチ旭川の再興に向かって-」と題する展示会が行われていたジュンク堂書店旭川店(一ノ八、フィール旭川五階)ギャラリー・ジュンクで九月二十九日、道内外の詩人たち十七人による記念朗読会が行われた。
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■最後に、富田さんが鹿児島県・知覧(ちらん)の飛行場から、戦友が特攻機で沖縄へと向かった情景と心情を詠った。「あれから七十三年が過ぎた。戦友に対しては『すまん』のひと言だけだ」と言葉を搾り出した。
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あさひかわ新聞 毎週火曜日発行
http://www.asahikawa-np.com/
(株)北のまち新聞社 北海道旭川市8条通6丁目
TEL0166-27-1577 FAX0166-27-1617

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・10月15日発売の『月刊メディアあさひかわ』11月号 ■「『青芽』から『フラジャイル』へ」イベント

・10月15日発売の『月刊メディアあさひかわ』11月号に大きく掲載戴いております。・・・今朝コンビニで読みました、誠にありがとうございますm(。_。)m

■「『青芽』から『フラジャイル』へ」イベント

 ~道内の詩仲間たちが次々自作詩を朗読
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■記念イベント「『青芽』から『フラジャイル』へ―詩のマチ旭川の再興に向かって」が9月29日、ジュンク堂書店旭川店5階ギャラリー(旭川市1条買物公園)で開かれた。
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■「地方の詩のイベントでこれだけ多くの詩の仲間が一堂に集まるのは、ほとんど聞いたことがない」「″詩のマチ旭川″の再興は夢ではないと思います。『青芽』が守り続けてきた創作への魂は確かにしっかり『フラジャイル』に引き継がれたと思います。」(富田正一さんのコメントより)
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発行/㈱メディアあさひかわ
旭川市1条通14丁目池尻ビル TEL27-0619 FAX26-6818

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