■「特集・旭川の詩人たち~新しい地平・新しい様相~」
第2回 詩人 木暮純さん
・旭川中央図書館にお立ち寄りの際はぜひ御覧ください!!
■『グラフ旭川』2021年5月号《文芸》(53ページ)
「壁 ―一枚の葉」 柴田望
*
宮本武蔵は生涯に六〇回以上
命がけの勝負をして一度も敗れなかった
しかし沢庵和尚に騙されて
千年杉に吊るされた
怒って杉を揺らすが、沢庵が笑う
「お前の怒りはその程度、
《私利私欲》のものだ
本物の怒りはそんなもんじゃない
大地を揺らす
《世のため人のため》の怒りだ」
「虎は所詮動物、蛮勇は勇気ではない
武士の強さはそんなもんじゃない」
死を恐れなかった武蔵が初めて
生きたいと願い、命乞いする
沢庵和尚は許さない
剣禅一如の境地を説いた沢庵宗彭が
宮本武蔵と会った史実はない
それなのに千年杉のエピソードは
繰り返し語られている
一枚の葉にとらわれるのをやめたとき
百千の葉を心は見る
自分のために怒っていては
周りの怒りが見えない
だから人を守れない
自分さえ守れないと悟る
怒りを手放したとき
沢庵がわざと目をはなした隙に
お通が武蔵を解き放つ
もう武蔵は虎ではない