詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

「 対応 」 

「 対応 」   柴田望
*

若い事務員 
お客様のお叱りを受ける
あるサービスをどうしても無料でやれと凄む
「当社の決まりで有料になります」
*

その客は発狂し、何時間も事務所に電話をかけまくり
スタッフ全員に「アイツは無料には出来ないと言った、
 オマエも言うか? 言わないだろう」
「オマエたちの会社で、アイツだけが悪い」
魂の脅迫は続く…
*

最初に電話に出た若い事務員だけが《悪い人》
タオルを持って謝罪に出向く
*

「会社にとっては、たった一人、あなただけが《良い人》
 あなただけが会社の利益を守ろうとした」
笑顔で褒めてくださった
*

人を信じず 神を信じたこともない私に
生きる意味を与えてくれた
あなたの部下であることだけを喜びとして暮らした
*

いつの日か恩返しをするとわかっていた
そのやり方が 
あなたにとってたった一人 
私だけが《悪い人》にならざるをえないとしても
*

人に気を遣わせる生き方なんて自慢にならないと教えてくれた
くだらない山の天気が荒れても
頂上は静かで
あなたのふるまいのように厳かだ

嘘は決してついてはならないと教えてくれた
その日から私は一度も嘘をついたことはない
伝え方は様々でも必ずあなたに真実を伝えた
私の目をまっすぐに見ることのできる人は少ない

あなたの教えを全うする
命がけの覚悟だから
職を失おうが、名誉を失おうが
そんな世俗のことはどうだっていい

魂の感謝だから
二度と再びあなたの目を見ることができなくても
いつも見守ってくれたあなたの目は
一生焼きついています

裏切りに満ちた社会で
たった一人の《良い人》なら
あなたから学んだことをすべて注いで
たった一人の《悪い人》になってしまうことを恐れず
真実を伝えるべきだ

それができない連中は甘えているだけだ

あなたの教えを忠実に守る 
それだけを思想に生きてきた
私利私欲のためにすることは仕事ではないと教えてくれた

「やるべきことをします」と私は言った
「どうぞどうぞ」とあなたは言った
*

抜け殻に命を与えてくれたあなたの信念のために
最大限の感謝をこめて
迷わず対応します

2018-09-12.

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