「 対応 」 柴田望
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若い事務員
お客様のお叱りを受ける
あるサービスをどうしても無料でやれと凄む
「当社の決まりで有料になります」
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その客は発狂し、何時間も事務所に電話をかけまくり
スタッフ全員に「アイツは無料には出来ないと言った、
オマエも言うか? 言わないだろう」
「オマエたちの会社で、アイツだけが悪い」
魂の脅迫は続く…
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最初に電話に出た若い事務員だけが《悪い人》
タオルを持って謝罪に出向く
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「会社にとっては、たった一人、あなただけが《良い人》
あなただけが会社の利益を守ろうとした」
笑顔で褒めてくださった
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人を信じず 神を信じたこともない私に
生きる意味を与えてくれた
あなたの部下であることだけを喜びとして暮らした
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いつの日か恩返しをするとわかっていた
そのやり方が
あなたにとってたった一人
私だけが《悪い人》にならざるをえないとしても
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人に気を遣わせる生き方なんて自慢にならないと教えてくれた
くだらない山の天気が荒れても
頂上は静かで
あなたのふるまいのように厳かだ
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嘘は決してついてはならないと教えてくれた
その日から私は一度も嘘をついたことはない
伝え方は様々でも必ずあなたに真実を伝えた
私の目をまっすぐに見ることのできる人は少ない
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あなたの教えを全うする
命がけの覚悟だから
職を失おうが、名誉を失おうが
そんな世俗のことはどうだっていい
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魂の感謝だから
二度と再びあなたの目を見ることができなくても
いつも見守ってくれたあなたの目は
一生焼きついています
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裏切りに満ちた社会で
たった一人の《良い人》なら
あなたから学んだことをすべて注いで
たった一人の《悪い人》になってしまうことを恐れず
真実を伝えるべきだ
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それができない連中は甘えているだけだ
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あなたの教えを忠実に守る
それだけを思想に生きてきた
私利私欲のためにすることは仕事ではないと教えてくれた
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「やるべきことをします」と私は言った
「どうぞどうぞ」とあなたは言った
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抜け殻に命を与えてくれたあなたの信念のために
最大限の感謝をこめて
迷わず対応します
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2018-09-12.