詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

■「文芸対談Ⅱ 吉田一穂をめぐって」 対談 吉増剛造氏 × 酒井忠康氏 

■10月21日(日)旭川から高速バスで札幌へ(乗り場が駅に変わっていた…)
荘厳なる北海道立文学館特別展示「極の誘ひ」へ参り、14:00より講堂にて行われました「文芸対談Ⅱ 吉田一穂をめぐって」吉増剛造先生と世田谷美術館館長の酒井忠康先生によるお話を聴講、なんと受講者180名にものぼり、道内の名だたる詩人の方々のお姿もありました。
最前列でノートを取りながら・・・お二人のご発言はほぼ書きとめたのですが、印象につよく残ったことのリストです。
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・平原一良理事長によるご挨拶 講師のご紹介。20年前にも一穂展が行われた経緯。
・吉増先生より、生原稿を見たときの驚き。マル「。」が右脇ではなく真下、完全に真ん中にある。
 (たった今、我々が発見した!)
 このマルの問題は、「美」の問題。極みというか垂直、ものすごくキレイ。最弱音(ピアニッシモ)。
・「樹」原稿をプロジェクター映写。文章の中に突然出てくる「。」の信号。
・一穂の朗読録音について。マイクを前にしたあの時代の人の特有の緊張感。
西脇順三郎が吉田一穂に「僕が評価するのは君と朔太郎だけだ」と言ったこと。
井上輝夫さんが、若い頃からめちゃくちゃ一穂ファンだった。
酒井忠康先生が岡田隆彦さんに「版画はオレのテリトリーだから入るな」と言われ身を引いた。
 「お前は詩を書かないから安心できる」と言われた。
・吉田一穂の弟子である加藤郁乎さんが美術手帖に書いた若林奮論はすばらしかった。
酒井忠康先生はある人に「吉田一穂の故郷の男だ」と紹介され、加藤郁乎さんに拝まれた。
・母のルビの問題。「ディスタンス」という距離の概念。
 カタカナはひらがなと違って時間が止まる。このカタカナ性はピアニッシモ
 原民喜は原爆が落ちたときの音をカタカナで「シュポッ」と書いた。
・「考えるとは一言一言つまずいていくこと」(北川透
 一言一言つまずいていく、そういう距離でもある。常に遠のいていく風景「・・・・・・」
 一行空きの凄まじい空白が語っていく。
・「捜り打つ」盲目の座頭市がピアノをさがしているよう。
・古い=赤い、平=岩。古平は赤い岩。その手前に白い岩の白岩町。
 冬は陸の孤島だった。ここに石を持ってくるには舟で運んできた形跡がある。
・吉田一穂の「等価性」。ボードレールマラルメのマネをして書くのではなく、
 「等価」である。西欧に読者がいたと仮定して、詩の普遍性を獲得する。
 西欧の詩人たちと比べて、俺たちにもできるんだ。
 「極み」=「等価性」これを目指さないのは詩人じゃない。
・作品「少年」人と神様と獣の中間の美しさ。こんな詩で極めた人はいない。
西脇順三郎のような「深沢の女将さんの腰巻が干してある」といった
 田舎の可笑しみは吉田一穂には書けない。書けなくていい。「少年」のほうがいい。
・吉田一穂の父は、一穂に才能があったから絵描きにはしなかった。才能があれば努力しない。
・吉田一穂の筆跡には、《絵を断念した不思議な霊気》がある。
・部屋に何も本がなくて、一冊だけ置いてあるということがあった。
 それはヒュームであり、パスカルのときもあった。(一種のスタンドプレー?)
・極みの誘いの中にある芸術の根源に通じる舞踏の姿勢。人、神、獣の中間。
・跼天蹐地《高い天の下でからだを縮め、厚い大地の上を抜き足で歩く意》
詩経の中にある「臥す」。土方巽の舞踏の原点。「臥」の一文字に宇宙の極みを見ている。
・筆跡・生原稿について コンピューターの時代でも違う残り方はする。
・平原一良理事長より、村山塊多、小杉放庵のこと。   
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■質問の時間の最後で、誠に恐縮ながら柴田が発言申し上げ、
お話の中で紹介された、小沢書店の吉田一穂全集(昭和54年)を持参しておりました。
監修が西脇順三郎金子光晴。編集に加藤郁乎、鷲巣繁男、吉田八岑等のお名前があり、装填が加納光於氏でした。その本の美しい装填について、酒井先生に伺い、なんと月報(付録)には、吉増先生が二つの詩作品を「空洞」というキーワードで論じておられて、それは中心に打たれた「。」のことなのか、筆跡にある《絵を断念した不思議な霊気》や、「等価性」に通じるのでしょうか、という質問を恐れながらさせて戴き、吉増先生より良い質問であったとの御言葉を賜りましたが…しかし加納光於氏の頁が吉増先生の松涛美術館の図録にあったことに気づいたのは旭川に帰った夜で、『朝の手紙』や『わたしは燃えたつ蜃気楼』の装丁、『わが悪魔祓いのために』の扉絵を手がけていたと認識せずに質問してしまった、、勉強不足を猛省しつつ、素晴らしい時間を過ごさせて戴いたことに感謝の限りです。
そしてなんと、有難く恐縮の限りですが、今回のご対談の詩誌『フラジャイル』への収録を前向きにご検討を賜り、ご承認を戴けそうとのこと。誠に有難う存じます。急ぎ本稿作成に着手致しております。新たなる吉田一穂研究の契機ともなり得る、重要かつ驚くべき内容になります。心より御礼申し上げます。
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■11月4日(土)のチラシも置かれておりました。

詩の朗読会「一穂への遥かなる最弱音(ピアニッシモ)」

 道内の詩人たちがお気に入りの一穂の詩と
 その詩にちなんだ自作の詩を朗読します。
 開催日時:2018年11月4日(日)13:30~15:30
 会場:当館講堂
 協力:北海道詩人協会
 申し込み方法:要申込・10月19日(金)9:00より電話にて受付。
 (定員60名、先着順、聴講無料)
 皆様のご来場を心よりお待ち申し上げます。
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2018-10-21.

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