詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

「 手 」 柴田望 2018-11-17.

「 手 」
*
 
シカが車にはねられて死ぬ
ボンネットつぶれて フロントガラス割れて
国道は通行止めになる
シカはヒトじゃないので シカの葬式は無い
シカの駆除をしていたヒトが ヒトをシカと間違えて
散弾銃で撃ち殺す
いつかこうなると思ってた ――民衆はささやく
長年山を知り尽くし 事故対策にも取り組んできた
最高の猟師 あなたは理解していた
あの時、あの場所にいれば かれがあなたを撃つことを
多額の補償金や保険金が ご遺族に入ることを 
あの状況でかれがあなたを殺しても
かれの誠実さを誰もが知っている
「ショルイソーケンで済むだろう」
引き金を引く直前に 計画に気づいても
今までの恩義に報いて 命がけの決断に手を貸す…
カラスが雛を育てる 巣を守る
ヒトを背後から襲う 命がけで襲う 鳥獣保護法により
ヒトは申請を出す 屋根に登って巣を壊す 雛を殺す
カラスはイルカじゃないので
カラスのために戦うヒトの団体は無い
ハトが迷いこむ 窓ガラスと手すりの隙間
バタバタと逃げられない 捕まえると急におとなしくなる
心臓の鼓動 温かい首の筋肉の回転を 
空へとき放つ ――その日が訪れるだろう
ハトはイルカじゃないので 逃がしても英雄にはなれない
ハトを掴んだ手が 黴菌だらけで汚い、などと言われるのだ
* 

2018-11-17.

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