〈ケサランパサラン〉とは何か?白い毛玉のようで、ふわふわと空中を飛んでいる、妖力を持つ不思議な物体に生と死の狭間を時間と空間を越えて案内されているような、稀有な体験・・・ ジェイムス・ジョイスのダブリン、ルー・リードのニューヨーク、チャールズ・ブコウスキーのロスアンゼルス・・・小樽は萩原貢さんの街。
「公園の坂へ抜ければ/光のエスカレーターでおりてくるどのひとも/見しらぬなつかしいひとたち」(「あみだくじ」)
どの景色にも懐かしい人たちとの思い出や物語が染みこんでいるよう。同じ景色も無限の表情を見せる。時空を超えて言霊が灯す明かりの中に、雨音の中に、息づいている。
「不眠の瞼を闇にひらいて目を凝らせば/あれらの日は/確かにあったさ」(「青春」)
どこから読んでも、小樽がこみあげてきて、萩原さんの作品を読んでいるはずが、自分が小樽で住んでいたときの記憶と重なって、ああ、この情景は多分、あのときの場所のことだ、とか、あのときの人たちは一体どうしているのか、もうこの世にはいない人もいると急に思い出し、駆けだしたくなる、とても濃厚な50ページ。どこから読んでも、飽きることなく、惹き込まれる。際限なく街を彷徨させられるのです。
「おい ここだよ/『望洋館』があったのは/やあ ずいぶんと立派な家が建ってるじゃないか/どんなやつが住んでるんだろうね/なんてはしゃぎながら/かの幽霊と肩を並べて/濃い霧の色をにじませる花の下/はるかな祭りの日を歩いたのだった」(「祭りの日」)
「あのひとがよんでいる/霧のきりぎし/ゆれる花のかげ/どんな約束が待っているとしても 急げ/いつか歩いた坂の道・・・/いや ちがうかもしれないな/と思いながら/歩きつづける」(「約束」)
幻燈師によって古き街は編まれる。