顔
*
真っ白い 何もないただの壁に 窓を落書きする
(日常の出来事や言いたいことを ありのまま赤裸々に書いて 一生の好き嫌いで言い訳
に徹する Replicationの自己回路 本物じゃない社会性を開き直り イメージの生育を
隔つ ぜんぶ吐き出してしまえば書き手は空っぽになる 立派であるほど恥ずかしいだけ
だ 比喩や修飾、主述や慣習の儀礼を消しゴムでごしごし削って 汚れだけが親しく残る
蝋燭の火が白紙の汚れを透かす 焦げ穴に昇る白煙の蛇行 ありのままと嘘の境を映像
の速さで遍路する 古傷や皺の数まで 見事な仮説の肌ざわりである)
台風の翌日 カラスの巣が公園の駐車場に落ちていた まだ飛べない雛がアスファルトの
上を撥ねる 親鳥がよく晴れた空から雛を見つめ 近づく人影に攻撃を仕掛ける 子ども
たちが公園で遊べない苦情で 公民館の職員が雛をダンボール箱に収監 別の空き地へ
親鳥が猛烈に抗議する 放っておけば雨風にやられる 猫に襲われるかもしれない だか
らヒトを襲う きみは雛が心配で何度もその戦域へ 遠くから箱を覗いた 初めて見るカ
ラスの雛は箱の中で緊張していた 親鳥は子どもを守るため 他の鳥の子どもを命がけで
排除する ヒトや猫の子どもを弾劾する 周到な罠をめぐらす 〈指導〉のふり 叱責を
繰り返して 人格を否定し精神を壊す 森全体の大義を装い 叱責する仲間を増やす 心
を壊す 肉体を滅ぼす 他の鳥の子どもが病気になっていなくなると もともといなかっ
た歴史に書き換える ヒトは手を出せない カラスはヒトの社会の隙間で疎まれ続ける
ヒトはカラスの人格を奪う 末裔を殺す 文化を 言語を 尊厳を壊す
(両親を失ったきみがカラスの雛を心配している 箱に差そうとしてビニール傘を買う
出会って最初の雨の日に傘をくれた 温かくしてね あなたの身体は私の身体だから…)
(記憶の拍子に一瞬だけ 血の気を帯びて急激に冷める …もう時間… ようやく掴みか
けたとたん 成熟の過程で忘れてしまう だれもが経験している 次の行を書きだす前に)
橋が見える場所で 川沿いの街灯が見える場所で 車を停めて 飲み物を買ってきて や
っと二人きりになって 溶けていく時間の彼方や 設計される未来の破片へ おたがいの
家族や過去の同僚が囁く わたしにとって〈大変〉なことは あなたにとって〈大変〉じ
ゃない おたがいさまの境い目が薄くなる地点に誘って 老いることのない死者たちの視
線に曝され ずっとこのままでいたい地点に 満ちていく差異を埋めようとせず この沈
黙に耳を傾け合うかぎり 誰にも知られていないことはぜんぶ 誰かに知られます その
日が訪れることを 初めて行われることはぜんぶ 遠い昔にした気がすると 誓いもせず
真っ白い 何もないただの壁に 窓を落書きする
(日常の出来事や言いたいことを ありのまま赤裸々に書いて 一生の好き嫌いで言い訳
に徹する Replicationの自己回路 本物じゃない社会性を開き直り イメージの生育を
隔つ ぜんぶ吐き出してしまえば書き手は空っぽになる 立派であるほど恥ずかしいだけ
だ 比喩や修飾、主述や慣習の儀礼を消しゴムでごしごし削って 汚れだけが親しく残る
蝋燭の火が白紙の汚れを透かす 焦げ穴に昇る白煙の蛇行 ありのままと嘘の境を映像
の速さで遍路する 古傷や皺の数まで 見事な仮説の肌ざわりである)
台風の翌日 カラスの巣が公園の駐車場に落ちていた まだ飛べない雛がアスファルトの
上を撥ねる 親鳥がよく晴れた空から雛を見つめ 近づく人影に攻撃を仕掛ける 子ども
たちが公園で遊べない苦情で 公民館の職員が雛をダンボール箱に収監 別の空き地へ
親鳥が猛烈に抗議する 放っておけば雨風にやられる 猫に襲われるかもしれない だか
らヒトを襲う きみは雛が心配で何度もその戦域へ 遠くから箱を覗いた 初めて見るカ
ラスの雛は箱の中で緊張していた 親鳥は子どもを守るため 他の鳥の子どもを命がけで
排除する ヒトや猫の子どもを弾劾する 周到な罠をめぐらす 〈指導〉のふり 叱責を
繰り返して 人格を否定し精神を壊す 森全体の大義を装い 叱責する仲間を増やす 心
を壊す 肉体を滅ぼす 他の鳥の子どもが病気になっていなくなると もともといなかっ
た歴史に書き換える ヒトは手を出せない カラスはヒトの社会の隙間で疎まれ続ける
ヒトはカラスの人格を奪う 末裔を殺す 文化を 言語を 尊厳を壊す
(両親を失ったきみがカラスの雛を心配している 箱に差そうとしてビニール傘を買う
出会って最初の雨の日に傘をくれた 温かくしてね あなたの身体は私の身体だから…)
(記憶の拍子に一瞬だけ 血の気を帯びて急激に冷める …もう時間… ようやく掴みか
けたとたん 成熟の過程で忘れてしまう だれもが経験している 次の行を書きだす前に)
橋が見える場所で 川沿いの街灯が見える場所で 車を停めて 飲み物を買ってきて や
っと二人きりになって 溶けていく時間の彼方や 設計される未来の破片へ おたがいの
家族や過去の同僚が囁く わたしにとって〈大変〉なことは あなたにとって〈大変〉じ
ゃない おたがいさまの境い目が薄くなる地点に誘って 老いることのない死者たちの視
線に曝され ずっとこのままでいたい地点に 満ちていく差異を埋めようとせず この沈
黙に耳を傾け合うかぎり 誰にも知られていないことはぜんぶ 誰かに知られます その
日が訪れることを 初めて行われることはぜんぶ 遠い昔にした気がすると 誓いもせず