詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

「小樽詩話会」会報No.621(2019年3月)

「小樽詩話会」会報No.621(2019年3月)

今年は忙しすぎてなかなか小樽へ行けず困っております。
小樽詩話会は発足から55年。「高齢化は如何ともしがたいのに、意気軒昂そのもの!」と新世話人の根深昌博さんの談。素晴らしいです!!
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「 手 」 柴田望
 

シカが車に轢かれて死ぬ
ボンネットつぶれて フロントガラス割れて
片側交互規制の雪道となる
シカはヒトじゃないので シカの葬式は無い

シカの駆除をしていたヒトが ヒトをシカと間違えて
散弾銃で撃ち殺す
いつかこうなる気がしていた ――民衆はささやく
長年山を知り尽くし 事故予防にも取り組んできた
伝説の猟師 あなたは読んでいた
あの瞬間、どの毛皮を着て どの陰にいれば撃たれるかを
多額の補償金や保険金がご遺族に入ることを
あの状況でかれがあなたを仕留めても
かれの誠実さを誰もが知っている
「ショルイソーケンで済むだろう」
引き金を引く寸前にもし計画に気づいても
今までの恩義に報いて 命がけの決断に手を貸す…

カラスが雛を育てる 巣を守る
ヒトを背後から襲う 命がけで襲う 鳥獣保護法により
ヒトは申請を出す 屋根に登って巣を壊す 雛を殺す
カラスはイルカじゃないので
カラスのために戦うヒトの団体は無い

ハトが迷いこむ 窓ガラスと手すりの隙間
バタバタと逃げられない 捕まえると急におとなしくなる
心臓の鼓動 温かい首の筋肉の回転
空へとき放つ ――その日が訪れるだろう
ハトはイルカじゃないので 逃がしても英雄にはなれない
ハトを掴んだ手が 黴菌だらけで汚い、などと言われるのだ

 

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