詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

顔 

顔  
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「他の皆が幸せなら、私は幸せです。」「皆が知るべきなのです。あなたがこの瞬間にどんなことをしても、その瞬間が、次の瞬間を左右しているということを」(INTERVIEW WITH JONAS MEKAS 2014)
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柔らかい木は 風が吹けば曲がる 硬い木は 風が吹けば折れる 風は硬い木から吹く 生贄は吊るされている きみを執拗に批判して 点数を稼ごうとするパワハラ上司に 恩を売ってやりなさい 自分の都合で動く者は 居場所を失う 周囲が見ている 進んで犠牲になる者は おのずと生かされる 生きているのではない 動かされている 一番必要なときに導かれ 遣わされる 今度会ったらあれを言おう、これも言おう 会ったとたん吹き飛ぶ 忘れても何かの拍子に蘇る 言いたいことを書くのではない 書かされている 虚無に導かれ 足を運ぶ 囚人労働により築かれた 使われていないトンネル 空缶の水を捧げ お経を読みに 途中でやめようとすれば 見えない手が伸びて 足首をぎゅっと摑まれる 実り豊かな木はお辞儀している 貧しい木は上から目線 泣く木の国道カーブは事故多発 三笠市市来知空知集治監 政治犯の顔ぶれ 栗山トンネルの工事は困難を極め 寒冷な気候と過酷な労働に耐えきれず多くが斃れた 根元には本当に 遺骸が無造作に埋められているのか? 骨は採掘されるのか? (アパートの下の階が焼失 亡くなったおじさんが床からぬっと浮かんできて きみは頭を押さえたね) 人間が棒に変わる 丸太と呼ばれる 脳の仕組みにより 神に代わって裁こうと 人は思いあがる (泥棒が入ったとき きみは日本刀を持っていたね) 水が飲めることも 道路も当然と思っている私たちが歩く 大雪遊水公園 忠別川の川底の石を素手でかき集めて運んだ 凍傷だらけの手足が眠る 国際法違反であったか否か以前に 労働とは何か それに殉ずるとは何か 同意したと思いこませる 同意せざるを得ない状況に追いこむ 強制ではなく 強行拉致でもなく 霊視を求めて きみの生保代理店に訪れる長い行列 ずっしりと重い所与の仮面 名刺の肩書きを脱ぐ 氏名 生年月日 手相 人相 A4の履歴 見破られる 強い側としてやったこと 弱い側としてされたこと 家族に再会もできず 奴隷として命を落とした囚人 異国の人たちの労働の遺骸に刻印された凍傷 指のない掌は きみの労働に宿っているか? コンビニ スーパー 携帯ショップ ガソリンスタンド 飲食 ホテル 娯楽 風俗のパート バイト 派遣 嘱託 正社員 店長 部長 社長クラス コンサル 社労士 弁護士 会計士 販売 自動車 不動産 営業 事務 ハンドルを握る タクシー 配達 大型 牽引 玉掛け 小型移動式クレーン 大型特殊 車両系建機 土木 建設 とび 土工 誘導する 取り締まる警察 消防 自衛隊 市役所 税務署 財務事務所 労働基準監督署 新聞を売る 刷る 書く記者 広告 カメラマン 照明をあてる 芸能人 市議 市長 道議 知事 かれらを当選させるための 権利を主張する共謀 発言を読む学生たち 新聞 雑誌 テレビ ネット 配信元の仕組みを変える 陰謀を企て 文化 思想 宗教を語る 人を集める 職を斡旋する 職の無い者を癒す医師 看護師 放射線技師 小学 中学 高校の先生 大学教授 助教授 奥様や子ども 将来何になる? 銀行頭取 名前を捨ててダンボールで暮らす 動かされて担う たった一人の声ではなく 無産階級の声なき群れ 周囲の皆が幸せなら幸せ 名づけられぬ瞬間の束が次の瞬間を左右している あったことを書くのではなく 書かれた声が現実を産む 決して記録されることのない 全員が詩人 その証拠に一行も書かない

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