詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

『非国民文学論』(田中綾著・青弓社 2020年2月発行) ブックカバーチャレンジ【4冊目】

■ブックカバーチャレンジ【4冊目】

・『非国民文学論』(田中綾著・青弓社 2020年2月発行)を拝読させて戴きました。赤紙の赤が基調、ブックカバーに召集令状が印刷されている御本を初めて拝見致しました。
 「非国民」とは蔑称。国民に非ざる振る舞いをする者。それを定義するのは誰か。国か、法か、世論か、社会の風潮か、身近な人づき合いのコミュニティか。最近はとくに新型コロナウイルスに罹患された方やそのご家族のことを「非国民」であるかのごとく、ネットで叩いたり、謝罪が行われたり、役所には「誰が感染したんだ、近所のあの人じゃないのか!」などの問い合わせが殺到、感染された方の家の壁に卵が投げつけられる狂騒。マスクをしていない人への攻撃、医療従事者やそのご家族への差別的な扱い、次は逆にそうした攻撃をした者が叩かれる等、短い時間の中で解決にならない暴力が発生し、価値観が揺るがされ、試される時代が訪れています。何を目的として行動や言動が行われるか、方向性が様々な情報により撹乱されているように思われます。それまで正しかったことが、ある機会を境に誤りであったと書き直される経験を人類の戦争の歴史は経ています。
 ハンセン病のために徴兵されなかった人たち、徴兵忌避の十字架を背負った人たち、そして「女こども」は「帝国臣民タル男子」ではない=国民ではないと定義づけられた人たちが見事に捉えた時代の空気、作品と軌跡。島田尺草、北條民雄、明石海人、伊藤保、……。二・二六事件の衝撃、(今年の旭川市民劇に重要な役割で登場する)齋藤劉、齋藤史の運命。〈共同幻想〉に対する〈対幻想〉を生きることを決意し、家族力を合わせて実行した金子光晴の想い。金子文子の死刑判決。誰が不都合で誰がそうでないかを体制が決める。今考えるべきたくさんの貴重な学びの機会を賜り、心より感謝申し上げます。

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