詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

『願うべきは保守の誕生』(西部邁著・不動産経済研究所)とオリバー・ストーン監督の発言について ブックカバーチャレンジ【7冊目】最終

ブックカバーチャレンジ【7冊目】最終

『願うべきは保守の誕生』(西部邁著・不動産経済研究所
2020年4月30日

オリバー・ストーン監督が2017年、映画「スノーデン」のときにTBSのNEW23のインタビューで、日本には主権がない、「アメリカの衛星国であり、人質なのです。」それがたった一つの日本の問題であるとテレビで発言し、画面に大きなテロップが出ていた。https://youtu.be/FN92uSPMheQ
 この放送と同じくらいのタイミングで西部邁氏がこう発言している。「今の安倍さんがやっていることは、まさに「米国べったり」。どうして保守がそのような振る舞いができるのかは甚だ疑問だし、大問題であると僕は考えています。」(安倍首相は「真の保守」ではない!西部邁氏が迷走政治を一刀両断『ダイヤモンド・オンライン』2017年10月)、「真の保守ではない」という言い方で批判できる人が安倍内閣の敵陣にもいないこと、また、今トランプ大統領コロナウイルスの感染源として中国への批判を強めておりますが、戦争となれば当然アメリカの属国として日本も巻き込まれるということも、何度も西部氏によって語られていることから、この新刊に注目を致しました。
 以前勤めていた教育関係の会社で、当時の上層部の絶対命令にて、『国民の歴史』『国民の道徳』が必読の書でありました。(そうでなければ読まなかったとは思いますが)中央公論社『世界の名著45ショーペンハウアー』の見事な解説を書かれた西尾幹二氏が歴史を、西部邁氏が道徳を、敗戦後の価値観をどう確立していくかという問題にそれぞれが切実に対峙し、戦後は終わっていないのだなと感じて読みました。日本で多くの人に使われている「保守」という言葉の意味や考え方はエドマンド・バークなどの政治思想とは違うのかな、という気づき。そこではじめて西部邁を知り、50代の頃から自死を決意されていたことを何かで読み、ついに2018年1月21日、生き方の総仕上げとしての死に方が選ばれたことに衝撃を受けました。「お父さんは自殺をすることに決めたよ」と息子さんに電話し、お世話になった人たちに感謝を告げ、「生き方としての死に方」たる自裁死を選ぶという生き方の決着については、著書に書かれている内容などからも一度情報を整理してきちんと考えなければならないと思っておりました。
 一応柴田も宅地建物取引士なので、不動産経済研究所さんから新刊が出たと知り、Amazonでも書店でも買えないことが分かり、不動産経済研究所さんにメールしたところ大変丁寧な対応を戴き、通信購入できました。1991年から2017年までの月刊「RISE」「不動産経済FAX-LINE」に書かれた執筆原稿90編が収録されており、…読み進めていると1998年9月「大衆扇動の時代」に、モニカ・ルインスキーの事件のことが。
 「これは単なるスキャンダルとして片づけられるべき問題ではない。アメリカという世界の覇権国がいかにグロテスクな大衆社会であるかを、この事件はよく物語っている。こんな下らぬことで自国の大統領の恥を天下にさらす、それは大衆社会でなければ起こらぬことだ」…日本でも芸能人の不倫を叩いて稼ぐのにマスコミはがんばっておりますが、クリントンを引きずり下ろすためにアメリカが何をしたかを西部氏は書いている。5年前のTEDトークでモニカ・ルインスキー本人が当時のことを語っています。https://youtu.be/H_8y0WLm78U
 「つい数年前までは、情報は新聞・テレビ・雑誌だけだった。ところがデジタル革命によって、一夜にして多くの人から世界中で公然と辱められる人間になった…」 Windows 98、ネット上にニュースがさらされた初めてのこと。新聞・テレビ・雑誌だけでなく、インターネットで大衆扇動が行われる時代の幕開け。やがて見るだけではなく、エドワード・スノーデンが告発したように、見る側が監視される時代に。ジョージ・オーウェルの小説『1984年』に登場するテレスクリーンの実現。統制された情報が提供され、個人の情報は監視され、個人の行動もメディアによって操られる。私たちは今どういう世界に生きているかということへの学びの機会。5月12日の北海道新聞に、ノーベル文学賞の候補とも言われる中国の作家閻連科氏の手記が寄せられていました。

「かつて真実が盛られていた果物の皿には今日、虚偽と不誠実な情報がたっぷり盛られるようになった。最も声の大きい演説者の言葉が真理となり、相手の鼻を指さす勇気のある審判に大勢の味方がつく。何層にも積み重なっている立体交差橋は行き来する車や人でいっぱいになっているのに、立体交差橋の出口の信号はかつてない感染症で遮断されてしまった。人類はまさにこのような歴史の中にいるのかもしれない。」https://www.hokkaido-np.co.jp/article/419627

( 北海道新聞2020年5月12日「中国の情報隠蔽、憂慮 作家・閻連科氏が手記 愛国主義にも危機感」 

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