詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

■若宮明彦詩論集『波打ち際に詩想を歩く』(文化企画アオサギ 2020年6月2日)

■若宮明彦詩論集『波打ち際に詩想を歩く』(文化企画アオサギ 2020年6月2日)

「海岸線は海と陸が現実に接触する空間的な場であり、さらには現世と常世をつなぐ神聖な場でもあった。」(「波打ち際の思想」)そのまま詩の神髄を顕すような一行。1999~2020年の間に書かれた若宮明彦先生の数々の論考が6章に分けて見事に編集されている。「Ⅰ章 波打ち際を歩く」惑星のかけらである奇岩・奇石、〈石神〉〈岩神〉信仰、地理的風土と有史以来の歴史的変遷、〈鉱物の王〉水晶への憧憬、海からの贈り物〈漂着物〉、そして「学ぶ」と題された論考、Ⅱ章近代詩人(吉田一穂、宮沢賢治八木重吉)から、原子修氏をはじめとするⅢ章現代詩人から(尊敬する佐相憲一さん、田中聖海さんの詩作品の魅力がたっぷりと語られているのがとても嬉しく!)、Ⅳ章実際にゆかりの地を訪ねられた紀行文を中心に海外詩人(ディラン・トマスオスカー・ワイルドヴェルレーヌゲーテジョン・スタインベックなど。ジャナニ・ラマナンの翻訳も!)の基本的な情報から現地における詩人たちの存在感が伝わる貴重な論考。Ⅴ章は「コールサック」に掲載されていた音楽への愛情溢れる「カントリー賛歌」も収録、テイラー、エルヴィス(ここで紹介されているチェット・アトキンスのCD持ってます!)、ジョージ・ストレイト…自分も若宮先生のように、キース・アーバンやガース・ブルックスの魅力を書きたいと思いました。道内外のさまざまな詩人・詩集が紹介されるⅥ章の現代詩アラカルトと盛りだくさんの内容です。何度も拝読させて戴き、勉強させて戴きます。
 柴田は高校まで北海道岩見沢市出身です。岩見沢の文学活動について終盤の「北海道岩見沢・空知圏の詩史(1989~2007)」、「文学岩見沢の会」北海道地域文化選奨特別賞を祝す」、大変貴重な勉強をさせて戴きました(現在「フラジャイル」同人として参加されている複数の詩人のお名前も!)。
 さらに嬉しかったのは、詩人・大貫喜也氏のことが論じられるp122「誠実清明な北の詩人ー大貫喜也詩文庫解説(初出『日本現代詩文庫・大貫喜也詩集』、p222『大貫喜也全詩集』(「詩の〈投壜〉よ、心の渚に届け(2014秋)」)が、この新刊に収録されていることです。詩集『黄砂蘇生』(思潮社・第36回北海道新聞文学賞)や、昔「核」や「青芽」に書かれていた御作品一遍ずつくらいしか読んだことがなかったのですが、深い実質感、少年時代の戦争体験から、グローバルな視点で文明を語られる、現代を代表する詩人と尊敬しておりました(富田正一さんの家で英訳本も拝見、世界で活躍された詩人!!)。
 「フラジャイル」同人の小篠真琴さんの詩集『生まれた子猫を飼いならす』の新鮮で豊穣な詩言語空間について、また、勿体なくも柴田の詩集『顔』についての評も収録戴いております。誠に恐縮の限りです。心より感謝申し上げます。

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