詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

詩誌「ア・テンポ」Vol.57(2020年5月20日 「ア・テンポ」の会)

■山本眞弓さんより、神戸の詩誌「ア・テンポ」Vol.57(2020年5月20日 「ア・テンポ」の会)を御恵送賜り、拝読させて戴きました。心より感謝申し上げます。
 詩作品、梅村光明氏の「曼荼羅弐圓~押韻の黄昏」は二元性の哲学者、九鬼周造を軸に展開される。福永武彦加藤周一中村真一郎白井健三郎、窪田啓作、原條あき子らによる『マチネ・ポエティック詩集』(1948年)のこと、三好達治の反論に対する九鬼の反論「詩の成立には言語の意味と音数としての律と音色としての韻とが構成要素となり得るがこの三つの要素は絵画に於ける構図と描線と色彩との関係のようなものであるとすでに記していた」、「韻も律も持たない現代日本語を用いなければならない今日の日本の詩の混乱はほとんど絶望的なVol.57様相を呈していると考えた」中村真一郎。鈴木獏による押韻定型・音数律定型の問題提起。この見開きに2ページに詩の形としての在り方の変遷が「黄昏」として収められていることを眼前に、詩の形式・器について、創作のときに自然にやってくるものとは別に、学問としても真摯に学び考えなければならないと、自戒致しております。
 「人は愛するに足り/真心は信ずるに足る」昨年12月にアフガニスタンで凶弾に倒れた故中村哲医師の詞が書かれた山本眞弓さんの「遠くからきた人よ」。武器ではなく命の水を。いまようやく多くの企業が取り組んでいる持続可能な開発目標SDGsの17の目標の6番目は《安全な水とトイレを世界中に》。「灰色の荒野を塗り替えようと/命の水を掘り当てた/1600本の井戸/1万6500ヘクタールの/荒地が 甦る/彼の足跡は 今も/緑の沃野に続いている」。遠い地の人々のために尽くされた、洪水にも負けず、用水路を築き、農業を甦らせ、砂漠にさまざまな作物の実りをもたらす。国家的な事業として継続されなければならない。「風に鳴る/目に見えない/光のバトン/確かに手渡された/不屈の魂」が未来へ引き継がれるための祈り。

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