詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

■『一般社団法人日本詩人クラブ70周年記念  日本現代詩選2020 第39集』 (日本詩人クラブ 2020年7月20日)

■図鑑のようにずっしり重い!
 『一般社団法人日本詩人クラブ70周年記念
  日本現代詩選2020 第39集』
 (日本詩人クラブ 2020年7月20日
 670ページものボリューム、小林恒岳氏の装画「流月を渡る」(1977年)も素晴らしく、錚々たる詩人の皆様の御作品、巻末の先達詩人のご紹介も読みごたえがあり、佐相憲一理事長によるあとがき「現代に詩を愛することの切実さ」の〈真の心の多様性が求められる時代〉〈ひとりひとりの内面を大事にする詩の世界の人びと〉という言葉に深い感銘を受けました。
 作品著者あいうえお順、柴田三吉さんの「辺野古」というもの凄い匠の結晶のような作品の次の頁に恐縮ながら、298ページに柴田望の「壁 ―片山晴夫先生へ」を掲載戴いております。全国の詩人の手に届けられる作品集に、旭川の片山晴夫先生のこと、東鷹栖安部公房の会での講演の一場面を書かせて戴きましたこと嬉しく、心より感謝申し上げます。片山礼子先生へこの本を送らせて戴きます。

壁  ―片山晴夫先生へ
         柴田望
~まどろまぬかべにも人をみつるかなまさしからなん春の夜の夢
後撰和歌集巻第九 恋歌一)
講演の直前、K先生が私を呼び
「すごい発見をしたよ!」
ぎっしり文字の詰まったノートに
〈古語「壁」=「塗る」・「寝る」=「夢」〉
「壁」は夢の総称
安部公房は伝統を拒絶しながら
和歌の古語を手法に活かした(仮説?)
「箱」や「棒」という言葉も
かつての日本人なら当然に理解していた 
重層的な意味が潜む
小説の主人公に境遇をもたらす
走り書きに辺境は潜む 
スマホのカメラで畏怖は撮れない
壁を捲る 口ずさむ縄跳びの作法
蝶結びのコツ 指先まで届く血は
ご先祖の働きに触れる
かつて咲き誇った庭の残影
かつては当たり前だった古い造りだ
新しい世代の家も
事故やクレーム、災害から学んだ
(危険)は(安全) 両極を前提にしている
《反リアリズム》の手法とは
《本当のリアリズム》の追究
あのときの輝く瞳…
6月のチラシを刷り、街じゅうに配って
最前列で先生の言葉を
耳で書きなぐり、講義録をまとめた
「日本語を紐解けば、〈壁〉にはアホ、愚か者、
そのような意味もある…」
覆る壁に沿った愚かさを恥じ 
名前に逃げられても
日常の《変形》を誘う声
どんな碑よりも高く導く
*
初出 詩誌「フラジャイル」第7号(2019年12月)f:id:loureeds:20200802234900j:plain

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