壁 (一枚の葉) 柴田望
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宮本武蔵は生涯に六〇回以上命がけの勝負をして
一度も敗れなかった
しかし沢庵和尚に騙されて、千年杉に吊るされた
怒って杉を揺らすが、沢庵が笑う
「お前の怒りはその程度、《私利私欲》のものだ
本物の怒りはそんなもんじゃない
大地を揺らす、《世のため人のため》の怒りだ」
「虎は所詮動物、蛮勇は勇気ではない
武士の強さはそんなものじゃない」
「怖いものの怖さを知り
命を大切にいたわり
人間は真の死に場所を得る」
死を恐れなかった武蔵が初めて
生きたいと願い、命乞いする
沢庵和尚は許さない
剣禅一如の境地を説いた沢庵宗彭が
宮本武蔵と会った史実はない
それなのに千年杉のエピソードは
繰り返し語られている
一枚の葉にとらわれるのをやめたとき
百千の葉を心は見る
自分のために怒っていては、周りの怒りが見えない
だから人を守れない
自分さえ守れないと悟る
怒りを手放したとき
沢庵がわざと目をはなした隙に
お通が武蔵を解き放つ
もう武蔵は虎ではない
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2020-08-15.