詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

■「美術ペン」160号 「旭川の文学活動について(特殊性と普遍性、超現実の現実、変形の運動…。)」柴田望

■「美術ペン」160号(2020 SUMMER 北海道美術ペンクラブ 同人:池田緑氏、岡田大岬氏、酒井忠康氏、吉崎元章氏、吉田豪介氏、柴橋伴夫氏)を、柴橋伴夫先生より御送り賜りました。恐れ多いことに、柴田の拙い文と制作致しました画像(「フラジャイル」第8号の表紙と同じものです)を、なんと!表紙に掲載戴いております……、感涙、一生の記念になります。心より感謝申し上げます。
 「旭川の文学活動について(特殊性と普遍性、超現実の現実、変形の運動…。)」と題し、SAPPORO ART LABO 〝SALA〟の講座「文学における普遍性と特殊性」で学ばせて戴いた多くの気づきから、旭川の文学活動のこと、東鷹栖安部公房の会、旭川歴史市民劇、詩誌「青芽」、「フラジャイル」についてなど、書かせて戴いております。大正末から昭和初めにかけて、関東大震災昭和金融恐慌、戦争へ向かっていく時代の特殊性。そして今年の日本・世界を覆うコロナ危機の情況。特殊な情況の中で文学活動はどのような変化を求められ、展開するのか。それぞれの時代の文学が、それぞれの時代の「特殊性」を生きた証言。先人たちの俤の大きさに魂を揺さぶられます。
***********
旭川の文学活動について(特殊性と普遍性、超現実の現実、変形の運動…。)
柴田望
 緊急事態宣言が解けてひと月後の6月26日、SAPPORO ART LABO 〝SALA〟の講座「文学における普遍性と特殊性」が嵩文彦先生(詩人・俳人)、髙橋純先生(小樽商科大学名誉教授)、柴橋伴夫先生(詩人・美術評論家)の鼎談的形式で開かれ(会場:トオンカフェ)、文学作品における《普遍性》とは作者本人や評論家が決めることではなく、「時代が決める」というお話が非常に興味深く、質疑応答の際に詩人の渡辺宗子さんが権力についての問題提起をされた瞬間に想起しました。既成権力構造の解体という特殊な情況を満州で経験し、戦後、都市と変形の実存を書き、時代の転換点ごとに国境を超えて今も読まれる小説家安部公房のことを。安部公房の原籍地は旭川市東鷹栖。開村130周年の記念に、旭川市中央図書館で記念展示が今年4月から7月末まで開催。故渡辺三子さんが所蔵されていた貴重な資料も展示されました。日常を断絶する安部公房の小説世界的な緊急事態のもと、会期中休館が続きました…。《東鷹栖安部公房の会》は2012年に結成。2014年には近文第一小学校(安部公房が小学2年から3年生の間に在学)に記念碑を建立。以降毎年、講演会や作品の朗読会を開催致して参りましたが、今年度の予定は残念ながらすべて中止。様々なイベントが中止・延期に見舞われています。
 旭川ゆかりの小熊秀雄没後80年、今野大力没後85年という節目の2020年(令和2年)、旭川歴史市民劇《旭川青春グラフィティ「ザ・ゴールデンエイジ」》の上演が予定されていました。総合プロデューサーであり脚本を手掛けた那須敦志氏をはじめ、市内各分野の有志によって結成された実行委員会、制作に関わる皆さんが情熱と力を合わせ、上演に向けて幅広くキャスト、スタッフを公募。大正末から昭和初めにかけて「キラ星のような若き才能が集い、交錯し、切磋琢磨した奇跡のような一時期」を〝ゴールデンエイジ〟と名づけた群像劇。詩人・小熊秀雄歌人・斎藤劉、斎藤史、「大雪山の北修」として知られる画家・高橋北修、カフェー経営者・速田弘、社会活動家・佐野文子……。郷土に自らの生を激しく燃焼した人々の足跡を次の世代へ伝える本公演に先立って、「予告編」のプレ公演(主催:旭川歴史市民劇実行委員会 共催:公益財団法人 北海道文化財団)が、コロナ禍深刻化直前の2月15日・16日に旭川市民文化会館で上演されました。時代に愛され、翻弄されながら、志を高く楽しく生きるキャラクターの魅力。主要人物のみならず、当時の名もなき人たちの圧倒的なパワーや、演技によって醸成された時代の空気そのものも主役。当時を再現する人たち、観に訪れる現代の人たちによる、神話的空間の構築。伝説の継承に取り組まれた奇跡の序章。しかし新型コロナウイルス感染予防を受け、8月に予定されていた本公演は2021年3月6日・7日に延期となりました。待ち遠しいですが、ウェブサイトが素晴らしく(https://asahikawa-goldenage.com/)、現在も市民劇セミナーやネット座談劇などが活発に行われ、時代背景の理解が深まります。
 大正末から昭和初めにかけて、関東大震災昭和金融恐慌、戦争へ向かっていく時代の特殊性。そして今年の日本・世界を覆うコロナ危機の情況。特殊な情況の中で文学活動はどのような変化を求められ、展開するのか。敗戦後の昭和21年に創刊し72年間活動が続いた北海道旭川の詩誌「青芽」(富田正一主宰)の後継誌「フラジャイル」は、8月発行予定の第9号に特集《ある期間に起きたこと》として、今年中止・延期された、または特殊なかたちで開催された催し等をご紹介すべく、編集を進めております。詩誌「フラジャイル」は2017年12月に創刊、年3回の発行を続けております。昨年12月に発行した第7号には、片山晴夫先生(北海道教育大学旭川校名誉教授)による2017年の特別講演「安部公房の戦後作品を読む」を収録。日高昭二氏の『占領空間のなかの文学――痕跡・寓意・差異』 (岩波現代全書)を紹介され、「戦後は終わっていない」という姿勢を明確に、特殊性に対峙されています。大学で片山晴夫先生と高野斗志美先生から文学を学びました不肖私の詩集『顔』(ムゲンブックス)が、今年度の第57回北海道詩人協会賞に選ばれ、大変恐縮致しております。旭川の詩人としては11年ぶり。現代の問題であるパワハラや、#MeToo運動のセクハラ、性的暴行、SNSでの誹謗中傷といった「なぜ人は残酷なのだろう?」という顕れを、「そもそも人は残酷なのだ」という転換を用い、戦争や強制労働をモチーフに、あらゆる詩型でえがきだす抵抗の拙き試み。足りないところばかりの詩集です。言語の古い規範が決定的にのりこえられようとしている事態のもと、それぞれに特殊な時代を生きた先人たちの圧倒的な俤に揺さぶられています。

f:id:loureeds:20201112231345j:plain