詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

■壁 ―「蟲」 柴田望 

壁 ―「蟲」 
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野性のカブトムシは北海道には生息しない、クワガタなら捕れると教わった
ペットとして持ち込まれ野性化して定着し生態系に悪影響を及ぼしている
トンボやバッタ、クワガタ、モンシロ、アゲハチョウ、カマキリなどを
注射で眠らせ、ナイフではらわたを摘出して、ピンで刺して箱に飾る
風の谷のナウシカ』の腐海王蟲(オウム)に似た種類はいない
でもどこかで見た記憶が…小説の挿絵だ、グレゴール・ザムザ
甲羅のついた背、褐色の腹、小さな無数の足、気持ち悪い斑点
全体は三つの章で構成されており、番号が割り振られている
だんだん化け物の声に変わり、いつしか声も出なくなった
自己の変容を観察するザムザの内部は実は人間のままだ
あからさまに変身したのはかれの外面と家族の態度だ
起点で戦争の動因となったのは国益であったはずが、
イデオロギーにすり替えられ、大西洋憲章に賛意
「連合国」対「秩序破壊的な国々」、正義対悪
人類の権利および正義を保全する目的に変身
腐海は人類が侵してきた罪への報いであり
父親との複雑な関係性が反映されている
苦悩の旅路の末ナウシカは真相を知る
修復不可能なほど汚染された土壌を
浄化する人為的な生態系システム
これは蝶が見ている夢だろうか
ただの鉄の板にすぎなかった
戦勝国側の言語に染められ
胡蝶の夢に周と為れるか
熱せられ、伸ばされて
切り分けられた部品
変身に身をゆだね
鉄板は顕微鏡へ
生まれ変わり
科学に貢献
飛翔する
羽根の
蟲の

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