詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

村田譲さんの新詩集『本日のヘクトパスカル』について 総合詩誌「PO」(2021年春180号 発行人:左子真由美氏 発行所:竹林館)

■歴史ある総合詩誌「PO」(2021年春180号 発行人:左子真由美氏 発行所:竹林館)P140-141に、村田譲さんの新詩集『本日のヘクトパスカル』について、柴田の文を掲載戴きました。誠にありがとうございます。詩集の魅力を、まだお読みでない方にお伝えできましたら幸いです。先週は北海道を記録的な低気圧が襲いました。今朝は曇り、雪は止んでいます。気象は神の領域。お許しを戴き、ここに転載させて戴きます。此の度は貴重な機会を賜り、心より感謝申し上げます。
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総合詩誌「PO」は、昭和49(1974)年に創刊された詩・エッセイ・評論などを中心とした季刊の詩誌です。ホームページはこちらです。
http://www.chikurinkan.co.jp/po/

《180号 記憶・ことば・モノ》
中村不二夫   古層に潜む記憶と詩 ―一九七〇年の記憶と場所―
吉田光夫    時間の流れの中の表現
一色真理    私の緘黙と大きな「目」について
市原礼子    都市の記憶 ―多和田葉子の『百年の散歩』―
近藤摩耶    光、虹、結ぶ朝日、鉢
西田 純    いのち
左子真由美   ショートショート 「灯り」
寺沢京子    「かけがえのない生命の時間」
今井 豊    脳はモノと心の架橋
田島廣子    留置場大学を卒業するおっさんに
深尾幸市    立原正秋丸谷才一/開高 健
高丸もと子   揺れる日に/村役/声日和/冬
中島省吾    甘い甘いメロスの記憶
笠原仙一    詩集『源さんの火』から
吉田定一    「感覚の処女性」に立ち返って

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村田譲 『本日のヘクトパスカル』(竹林館) 柴田望

 数年前より、小樽詩話会の会報などで「本日のヘクトパスカル」連作をいつも楽しみに読ませて戴き、いつか詩集に結実されるのだろうと待望致しておりました。目次を拝見すると同名の詩作品は1~3までですが、詩誌などではもっとたくさん拝見しており、タイトルが変更されて本詩集に収められているのかなと思われます。例えば「三十年も住まってみれば/鉛水管も劣化し漏水事故も多くなる」ではじまる31ページに収録の「リフォーム気分」は、2018年9月29日に旭川ジュンク堂書店ギャラリーで開催した「「青芽」から「フラジャイル」へ」記念朗読会で朗読された時には、確かに「本日のヘクトパスカル」という題名でした(裸足のパフォーマンス。このときの村田譲さんの朗読はYouTubeで動画配信致しております。YouTubeで「村田譲 本日のヘクトパスカル」で検索すると閲覧できます。ぜひご覧ください)。
 ヘクトパスカルは気圧の単位。気象は神の領域。予想は外れることもある。だから驚きに満ちている。人の心も宇宙の領域。晴れの日も荒れる日もあるかもしれないけれど、そのすべての天候の器である空は太古の昔から変わらずそこにあり、「まあ、そういうことですから…今日は曇りでいいや」いかなる天気をも受容する器の大きな人って素敵。詩集は四部構成。前作『円環、あるいは12日の約束のために』(緑鯨社)と同様、台詞のような独白の文体で、一人の詩人の創作のようでありながら共作のようにも感じられる。2019年4月14日(日)、恵庭中央図書館で行われた「第12回 春萌え朗詩の会」へ行く途中、恵庭駅でピンクのレディース傘を持った村田譲さんを見かけ、なんというおしゃれな傘を持っているのだろう…と後を尾け、会場で朗読された「3月12日の約束」(詩集『円環、あるいは12日の約束のために』収録)を拝聴し納得。詩に登場する姉弟のピンクとグリーンの傘の取り違えが重要な鍵となります。イメージが豊かに広がりました。3・11へのレクイエム…あの深い朗読を拝聴してからというもの、私にとって村田さんの詩作品は人生の大切な一部分が切り取られた演劇的な効果というか、映像的に響く。一篇の詩の構成、一冊の詩集の編纂も、村田さんのパフォーマンスと同様、じつは緻密に計算されているのです(ご本人は少し照れて、「いや、いいかげんだよ」などとと仰るかもしれませんが…)。
 詩に選ばれた舞台(日常)があり、登場人物「妻」と詩人と読者の三者構造。詩人はだれに語り掛けているのか。「そういえば台所の換気扇も調子がよくないし/ほめれば割と調子に乗るタイプだし/寄りかかりすぎない程度に/次のお休みにお願いしてみよっかなぁ」(「さまようドアノブの」)。心の声のような書き方が、読者との秘密。悪戯心の共有のようでいて、じつは「妻」側にとっくに見透かされているようで、わくわくします。いちばん近い他者がもし自分自身であるとすれば、次に近い他者である大切な人との距離に紡ぎ出される時空を主題にされることで、詩にとって最も根源的な、人と人との関わりについて、自分との向き合い方についての表現となり、しかし私小説的な閉塞感からは解き放たれている。それは、感動的なあとがきの冒頭に書かれているように、「本を出すときはその扉の裏に「あなたにありがとう」と、書くものだと信じていた。」という想いが根底にあるからではないでしょうか。愛と感謝。大切な人を大切にする人はもてる。そしてユーモアを忘れない。かっこいいです。知人に村田譲さんのファンがたくさんいます。皆さん本詩集の発行を大喜びします。北海道詩人協会会長で私たち後進をいつも熱く応援してくださる村田譲さんは、恵庭での詩の分野の確立、道内外での朗読パフォーマンスなどの開拓、新たなファンの獲得による文化発展への寄与を評価され、令和2年度の恵庭市文化協会文化振興賞を受賞されました。おめでとうございます! また、村田譲さんのブログ「空中庭園な日々」は北海道の詩誌を中心に、気になるニュースが満載です。イベントなどを中心に紹介されるブログ「吟遊記」とともに、道内のみならず全国から注目を集めています。
 詩集の話に戻ります。とにかく帯がでかいです。表紙半分以上の高さです。詩が一篇まるまる収まるくらいの。帯の白は雲、表紙のブルーは空でしょうか。詩は比喩の魔術。感情だけではなく、運命の繫がりや様々な事象、相手だけでなく、自分自身の天気とも向き合うこと、難しく考えてもダメで、操ることはできなくて、予想も当たったり外れたり、でも最後には晴れたり…心の不思議と天体の不思議。言葉が見事に喩えます。ところで「ゴミステーション」が北海道弁だったとは…そういえば「スズランテープ」が北海道弁だということを教えてくれたのも、村田譲さんでした。いつも凄く勉強になります、ありがとうございます‼

(詩誌「PO」2021年春180号 発行人:左子真由美氏 発行所:竹林館)

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