■季刊「詩的現代」36号(第二次March2021 詩的現代の会)を拝読させて戴きました。
・「愛し合う者同士にはパリも狭い」の台詞で有名な、ジャック・プレヴェール脚本、マルセル・カルネ監督による名作『天井桟敷の人々』は第二次世界的戦中に3年3ヶ月かけて撮られ、パリ解放後の1945年に公開された。
「警官(男)は云う「ご自由に」
ガランス(女)はこたえる
「よかった 私は自由が好き」」
・数えられることへの怖れ、感染予防のために制限や規制を守らなければ、けしからん、「自由」であったはならないという風潮に飼いならされている今の時代に、終戦の夜明けに公開された映画の「自由」の台詞は淡い。
・本号の特集は「詩に表れた性愛」。愛敬浩一氏の論「詩に表れた性愛とは?」で、鈴木志郎康の『新生都市』、『罐製同棲又は陥穽への逃走』、『見えない隣人』が論じられているのを嬉しく拝見。「不断に生活そのものを観念化し、虚構化してくるのである。現代風俗を一瞥すれば、どれほどのことばが、イメージが、あるいはイメージ化したものが、具体性としての生活それ自体を虚構化しているかは即座に了解しうるはずである。」という上野昂志の鈴木志郎康論が引用されている。マンションのエレベーターのプラスチックのボタンが何者かによって焼かれている。「私の見えない隣人の会話の仕方なのだ」…「具体的な」隣人を想像することに感じられる言葉の〈性愛〉、「他人と触れ合うことの怖れと歓び」「即物的な哀しみ」、いずれも詩の創作における根源的で、未だに未知のあらゆる可能性を秘めた深い領域と心得ます。