詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

詩誌「饗宴」Vol.89

■瀬戸正昭さんより詩誌「饗宴」Vol.89をお送り戴きました。ありがとうございます。この「饗宴」の海外詩特集で以前ルイーズ・グリックの翻訳をされた木村淳子先生の「ルイーズ・グリックの受賞に寄せて」(初出「北海道新聞」2020年10月21日付)、昨年ノーベル文学賞、さらにトーマス・トランストロンメル賞を受賞した米女性詩人ルイーズ・グリックとは、どんな詩人なのか?

 「グリュックは個人的な体験をうたう、いわば自伝的な詩人だといわれる。この詩集(『野性のアイリス』)でも彼女は自分の苦しみを語っているが、その声は静かである。きわめて私的な問題は雪解けの地面から芽を出し花を咲かせる野の花をたとえにして、花の声として読者に届けられる。あるいは子供のころから詩人が慣れ親しんだギリシャ神話のエピソードを下に敷いて語られて、普遍化される。小さな花に心を寄せる詩人の眼差しは優しい。雪解けの春の森の薄暗さの向こうにはかすかに明るい希望の光が見えている」…見出すのが困難な時代に歌われる、かすかな希望の光。

 翻訳家から見たこの詩人の魅力は?「私を引き付けたのは彼女の言葉使いであった。」「易しい簡潔な言葉と表現で組み立てられた詩の世界の美しさだった。彼女の詩はどれも必要且つ十分な言葉で作り上げられて、余分なものをそぎ落した端正な美しさを備えている。この点を批評家たちはグリュックの詩の特徴の一つとして注目し、端正で簡潔な表現を見事だと評している。」

 「端正で簡潔な表現」…「苦しみを泣いたり怒ったりするのではなく、苦しみを苦しみと受け入れることによって克服する詩の強さと優しさ。」
 詩の表現とは何か、という問いに対する数多の答えの、もっとも本質的かつ普遍的な視点。この文を拝読の後、「饗宴」本号にに収められている9人の詩人の創作を鑑賞させて戴き、青春の生の輝き(「パンデザート」二宮清隆)、親しきものとの愛おしい記憶(「亡き猫へ」立原透耶)、魂と肉体、人の生と死(「年輪」住連木律)、時間と空間を超えた心象の無限性(「ガラスの壁」★まゆみ)、家族の会話の澄んだ輝き(「わかくさ」佐藤裕子)、感性の閾値を軽く超えるイメージの豊かさに瞠目致しております。心より感謝申し上げます。

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