詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

詩誌「時刻表」第九号(「時刻表」舎 2021年5月)

■山本眞弓さんより詩誌「時刻表」第九号(「時刻表」舎 2021年5月)をお送り賜りました。誠に、ありがとうございます。
 広瀬弓氏が2019年のリボーンアート・フェスティバル2019、吉増剛造先生の「詩人の家」を訪問されたときのことを書かれたエッセイ「震災後初めて東北の地を訪れて(一)」P16 に注目、「多くの書き手が信じていた言葉を失った」大自然への畏怖、震災の後、魂の復元への一歩、「とうとう被災地を訪れる時が来たと直感した」という思いに、深い感動を覚えました。
 田中健太郎さんのエッセイ「ロシアの魂を受け継ぐ遺児たちの物語~工藤正廣『チェーホフの山』を読む」、〈孤児〉ではない〈遺児〉。「遺産を継承するという意味での、遺児」とは何か。主人公ガスパジン・セッソン(=ミスター雪村)はこう語る。「リンネテンショウの意味は、ただ人間の同じような生まれ変わりではなくて、そうではなく、かつてこの世にあった精神の生まれ変わりだというのなら分かりやすいね。」「魂の生まれ変わり」「血筋ではないのだ、このようにして、魂のひびきあいによって、精神はひきつがれる。」…文学の豊穣な想像力の真の役割の一つ、田中氏がここで書かれる「過去から受け継いだ遺産に対して、新たな表現を加え、また後の世に残していくということ」は、あらゆる芸術形態の取り組みや伝統的な仕事の中に込められる。潜在意識の宇宙の奥底から受け継がれ、新しい命を吹き込まれる。大切な言葉。魂のひびきあい、精神の継承。
 山本真弓さんの詩篇「水の淵」、「草木の繁る/この小宇宙で/小鳥の脳で/精一杯おつとめをする」という詩行を中心にフラワー・オブ・ライフのビジョンが広がる。映画「ダンシング・ベートーベン」で三浦雅士氏がぺジャールの振り付けにおける円環の重要性を語るシーンがありました。生命と死の、水の淵は踊りながら円を描く。楠の葉も、小鳥も、薔薇も、草に潜む虫も、水でできている。人間である私も水の巡りであるということを、最終連で気づかされる。

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