詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

詩誌「御貴洛」Vol.37(2021.5 2021年度 1学期号 なんとかなる編集室)

■河野俊一さんの詩誌「御貴洛」Vol.37(2021.5 2021年度 1学期号 なんとかなる編集室)を拝読させて戴いております。誠に、ありがとうございます。
 5ページにわたる詩篇「みんなで」に衝撃を受けております。

「デモだって
 みんなで歩けば恥ずかしくないし
 ヘイトスピーチだって
 みんなで叫べば怖くない
 フェイクニュースだって
 みんなで流せば後ろめたくない
 だってみんな
 しているもん
 みんながしていることは
 多くの人が認めることなので
 みんなとても安心なのだ」(「みんなで」)

共同幻想、集団心理に操られる善悪の価値観、現代の問題について、詩人の視点が深く刺さる。「みんな」を動かすのは何か。例えば、ファッション。
 1980年にデヴィッド・ボウイが発表したアルバム『スケアリー・モンスターズ』の中に「ファッション」という有名な曲があります。「Fashion! Turn to the left/Fashion! Turn to the right」、右を向け!左を向け!と指をさして命じるパフォーマンス。

「Listen to me, don't listen to me
Talk to me, don't talk to me
Dance with me, don't dance with me, no Beep-beep

俺の言うことを聞け、俺の言うことを聞くな
俺に話せ、俺に話すな
俺と踊れ、俺と踊るな、ダメだ ビッ、ビッ!(警笛)」
ーFashion. (David Bowie).

 ボウイは小説『1984』の大ファンで、ジョージ・オーウェルの奥様にミュージカル化を断られていますが、1974年発表の『ダイヤモンド・ドックス』には、「1984」「ビックブラザー」など、もろ影響を受けた曲が収められており、当時のステージも『1984』の世界観を再現しています。監視社会が市民を洗脳して操る。「みんな」の「普通」を作る。「アウシュヴィッツ以後、詩を書くことは野蛮である。」と書いたアドルノによれば、文化は流通のなかにおいて「飼い馴らされて」いる。

「みんなで暴いていく
 そんなにわるいことだと
 みんな思わない」(「みんなで」)

 河野俊一さんの「みんなで」は、やわらかい普通の言葉で、恐ろしい現状を浮き出す。やわらかくて「安心」で「普通」そうでいて、実はとっても恐ろしい世界に私たちは居るのだ。

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