■河野俊一さんの詩誌「御貴洛」Vol.37(2021.5 2021年度 1学期号 なんとかなる編集室)を拝読させて戴いております。誠に、ありがとうございます。
5ページにわたる詩篇「みんなで」に衝撃を受けております。
「デモだって
みんなで歩けば恥ずかしくないし
ヘイトスピーチだって
みんなで叫べば怖くない
フェイクニュースだって
みんなで流せば後ろめたくない
だってみんな
しているもん
みんながしていることは
多くの人が認めることなので
みんなとても安心なのだ」(「みんなで」)
…共同幻想、集団心理に操られる善悪の価値観、現代の問題について、詩人の視点が深く刺さる。「みんな」を動かすのは何か。例えば、ファッション。
1980年にデヴィッド・ボウイが発表したアルバム『スケアリー・モンスターズ』の中に「ファッション」という有名な曲があります。「Fashion! Turn to the left/Fashion! Turn to the right」、右を向け!左を向け!と指をさして命じるパフォーマンス。
「Listen to me, don't listen to me
Talk to me, don't talk to me
Dance with me, don't dance with me, no Beep-beep
俺の言うことを聞け、俺の言うことを聞くな
俺に話せ、俺に話すな
俺と踊れ、俺と踊るな、ダメだ ビッ、ビッ!(警笛)」
ーFashion. (David Bowie).
ボウイは小説『1984』の大ファンで、ジョージ・オーウェルの奥様にミュージカル化を断られていますが、1974年発表の『ダイヤモンド・ドックス』には、「1984」「ビックブラザー」など、もろ影響を受けた曲が収められており、当時のステージも『1984』の世界観を再現しています。監視社会が市民を洗脳して操る。「みんな」の「普通」を作る。「アウシュヴィッツ以後、詩を書くことは野蛮である。」と書いたアドルノによれば、文化は流通のなかにおいて「飼い馴らされて」いる。
「みんなで暴いていく
そんなにわるいことだと
みんな思わない」(「みんなで」)
河野俊一さんの「みんなで」は、やわらかい普通の言葉で、恐ろしい現状を浮き出す。やわらかくて「安心」で「普通」そうでいて、実はとっても恐ろしい世界に私たちは居るのだ。