詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

詩誌「UltraBARDS ユルトラ・バルズ」35号(編集:小林弘明氏 2021年5月1日)

■詩誌「UltraBARDS ユルトラ・バルズ」35号(編集:小林弘明氏 2021年5月1日)を拝読させて戴きました。
 細田傳造さんの詩篇「いやいやながら浮かばされて」、

「ものごころついてから
 ずっとVOYANTしていたら
 十五まで年老いた
 株屋の小僧をしながら老残を生きて
 小銭をためた 金は睾丸を腐らせる
 金玉に洞が来て二十歳で死んだ」(「いやいやながら浮かばされて」)

 時の流れは恐ろしい。VOYANTとは何か。フランス語voirの現在分詞。voirは見る、見える。会う、面会する。交際する。分かる、思う、判断する、認める、認識する。調べる、検討する。相談する、診る。想像する、予見する。…つまり生きていた。人生はあっという間に費やされる。骨となり、「攪拌されて/発酵されて/気化されて/蒸留されて」…「ヒト型」の「幽体」、世界中を「瞬間移動」もでき、「犬を連れた可愛い奥さん」にもなれる。つまり神に近づいているのではないか。ボルヘスの「全と無」、シェイクスピアに神が語る「わたしもまた、わたしではない」「多くの人間でありながら、何者でもない。」…匿名性とは神の特権。
「いかなる男の熱い視線も/スカートの中に吹いている/劫の風を/みることはできない」…「劫の風」が引用されている木内寛子さんは、震災と関わりの深い詩人の方でしょうか。日常ではvoir見ることのできない、気づかれぬ非常の壮絶さに、詩は繫がる。
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 小林弘明氏による「『多重露光』と感覚そして質的な差異-松尾真由美を読む」、詩句の熱の広がり、「言葉以前の感覚が運ばれて言葉と結ばれる」作用を、ベルクソンの知覚についての考え方、「意識の円錐モデル」で論じられる。視覚=知覚的感覚と触覚=強度的感覚の時空での交わり。時間とは連続による浸透する記憶の構造。露光作用が幾重もの円錐を生み、言語を持って語り掛ける、物理的時間における差異の顕れ。「待つ」という姿勢から「詩句と詩句の間に、微細なあるいは儚い動き、生の吹き込みが織り込まれているだろう。」、まるで電子顕微鏡で奇蹟的な命の芽生えを、観測しているような精巧な論。

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