詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

「交野が原 KATANOGAHARA」(編集・発行人 金堀則夫氏 第90号 2021年4月1日発行)

■「交野が原 KATANOGAHARA」(編集・発行人 金堀則夫氏 第90号 2021年4月1日発行)を拝読させて戴いております。誠にありがとうございます。
 青木由弥子さんの詩篇「口実」、スマホのナビゲーション、画面のマップ上のラインと、実際に生身の人が歩く風景。とんでもないところを通過せよと案内されることも。「諏訪神社境内」と記されている「日露戦没記念碑」は乃木希典碑書、伊勢崎市今井町でしょうか。「すべての人に行き先がある」という詩人の発見。世界中の飛行機の航路がリアルタイムで見えるアプリ(Flightradar24)があります。空も陸も無限の行き先に満ちている。
 「非存在から、意識化される美しい詩と難解な詩の、現代詩という詩空間が求めるもの・・・(Ⅲ) 『岡田隆彦詩集成』(響文社)の詩集『時に岸なし』『鴫立つ澤の』と中尾太一の『詩篇 パパパ・ロビンソン』(思潮社)を結ぶもの・・・」(岡本勝人氏)、「岡田隆彦の詩にこめられた詩情を感じながら、稲川方人の詩作する詩の抒情から中尾太一の詩群を詩史論的にたどる道」が「詩に何ができるのか」を「根源的にさかのぼる人間存在の観点からも重要な道である」との論考に圧倒され、『岡田隆彦詩集成』(響文社)の『時に岸なし』、『鴫立つ澤の』を再読、それぞれに独特な難解さのある詩集ですが、「ショパンは、やはり自然の身振りをとらえつつ/模擬的にではなく/心のなかでかたちをえていた。」(「自然の身振り」『時に岸なし』収録)や、「画家は内部と幻のために表面を精細に描く。/ものの仕組と細部を知ろうとしなければ、/人間の自由と知恵とを/生きることはできないからだ。」(「柘榴の宇宙ー野田弘志に」『鴫立つ澤の』収録)といった詩句から、本稿の「詩の世界は、自己の生と正面から付き合って劇化する。現実界から想像界を突きぬけた象徴界を表すものであった。しかし、誌の覚醒によって、生身の身体と精神の核は、絶えず、想像界現実界に連れ戻されていた。」という論の理解に繫がる、岸のない時間の還流、創作の神髄のようなものが感じられました。
 後半には14本もの書評が収められており、金井裕美子さんの「ぼくが書いた「恋う気持ち」-金井雄二詩集『むかしぼくはきみに長い手紙を書いた』(思潮社)」に注目。大好きな詩集です。まぎれもない「恋愛詩集」であるという御指摘。「きみ」の不在。世界における足りなさ。「傍にいない、それは揺るぎのない事実。その事実をそのままのかたちで冷静に受けとめて、大切にしているのである。」…喪失することで、静かに、深く、どれほど想っていたかがわかる。「きみ」を想う「切なさや哀しさとともに、この世界に心から愛することのできるひとと居合わせた」それは奇蹟であった…「喜びをも、しっかり抱え合わせている」。共に過ごせた時間がどれほど大切であったか、後から気づくことも。「心の動きを、切なる気持ちそのものを書いておきたい」長い手紙。それは投函されることが重要ではない。もしかすると永遠に書き続けられていく。

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