■「小樽詩話会」No.635(2021年6月5日発行 小樽詩話会)
題名からオルダス・ハクスリーの小説を、「信じない」という詩句のリフレインからジョン・レノンの「ゴッド(神)」を連想させる下川敬明さんの「素晴らしき世界」、川音に誘われ情景に引き込まれる中筋智絵さんの「風を掬う」、深くて不思議な夢の扉を開く二宮清隆さんの「睡眠水」…魅力的な作品が満載です。紙上例会に感想を寄稿させて戴きます。ありがとうございます。
P8-9に拙作「壁 (蟲)」を掲載戴いております。この原稿は3月締め切りで、書いたときには「風の谷のナウシカ」全7巻を、まだ1回くらいしか通して読んでいなかったので、理解が不足していました。今巷でベストセラーの斎藤幸平著『人新世の「資本論』の「人新世」とは、人類が地球の脅威となる世界大戦以降の現代のこと。人が環境を壊し、人を滅ぼす。あらゆる天災が人災につながる。環境を再生させるための腐海。オウム(王蟲)も人工物…。モデルは三葉虫?でしょうか。似ているように感じます。遠い記憶ですが、小学校の教室で読んだカフカの小説「変身」の挿絵のザムザにも。
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「壁(蟲)」 柴田望
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ペットとして持ち込まれ野性化して定着し生態系に影響を及ぼす
カブトムシ、クワガタ、トンボ、バッタ、カマキリ、モンシロ、
アゲハ蝶を注射で眠らせ腸を摘出し、ピンで刺し、箱に飾る
『風の谷のナウシカ』の王蟲(オーム)に似た種はいない
どこかで見た記憶…小説の挿絵だ、グレゴール・ザムザ
甲羅の背、褐色の腹、蠢く無数の足、気持ち悪い斑点
だんだん化け物の声に変わり、やがて声も出せない
全体は三つの章で構成され、番号が割り振られた
自己の変容を観察するザムザの内部は人のまま
あからさまに変身したのは容姿と家族の態度
起点で戦争の動因となったのは国益だった
イデオロギーにすり替えられ大西洋憲章
連合国(正義)対秩序破壊的な国(悪)
父親との複雑な関係性を毒虫は映す
腐海は人類が侵した罪への報いだ
苦悩の旅の末、ナウシカは知る
修復不可能な汚染された土壌
浄化させる生態系システム
蝶が見ている夢だろうか
占領国側の言葉に無い
不知周之夢為胡蝶与
熱して薄く伸ばし
鉄板を切り分け
顕微鏡部品へ
変身させる
飛翔する
羽根の
蟲の
夢