詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

■「小樽詩話会」No.637(2021年 10月 小樽詩話会)「 壁(故郷憧憬)」 柴田望

■「小樽詩話会」No.637(2021年 10月 小樽詩話会)

 

「 壁  (故郷憧憬)」 柴田望
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 生は影の歩みを超えて行く…
 二〇一七年二月二十五日(土) 旭川市中央図書館主催
 「サウンド・音楽と映像による安部公房『無名詩集』朗読会」
 二階視聴覚室で、詩とイメージ画像のプロジェクター映写
 安部公房が所有していたシンセサイザー(EMS-AKS)の音源を使用
 《東鷹栖安部公房の会》は二〇一二年に結成
 安部公房が小学二年から三年の間に通った近文第一小学校に
 二〇一四年、記念碑を建立
 東鷹栖公民館の事務室でビニールに包まれたガリ版刷りを手にとる
 作家の手により「砂」と書かれた色紙や
 川端康成から送られた手紙のコピーを展示
 東鷹栖支所には、渡辺三子さんが所蔵していた三百点もの資料
 (札幌から詩人の渡辺宗子さんが来てくれた 展示室を案内した)
 安部公房二〇歳の詩論 「世界内=在」と「世界=内在」 
 詩人は光の点滅で交互に素早く行き来する 大いなる蟻の巣を照らす
 解説テキストは『北方文芸』一九九七年二月号「安部公房論」高野斗志美 
 戦争がひき裂き、掠奪し、ふみつぶした括弧付きの青春
 夜が、現存在の直覚として「ソドムの死」を一瞬捉える
 執拗に故郷を拒んだ友のために記念碑を建てようとした
 日本へ帰らず、中国で客死した金山時夫
 黒蟻の紋章を追って、東へ、北へ、山へ訣別 
 すべてを包む夜、透明に浄化され尽くした血は 
 唯一回限りの生の確証を求めて故郷を再びめざす 
 存在の証への希求が本質的な死の季節を逆証する
 故郷喪失と故郷希求の両極にひきさかれたはげしい苦しみ
 歴史から解放されて 廃疾の最も深い部位へ降りていき
 一切を忘れる笑いが滅亡の丘に育つ 壁は名前を廃疾
 感傷の花は拒否されている 廃疾は無駄ではない
 恐らく花は咲かない

 

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