詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

■旭Asahikawa川・Poetry詩 ・Literature文学・Philosophy哲学・Thought思想

■旭Asahikawa川・Poetry詩 ・Literature文学・Philosophy哲学・Thought思想
 
 いまから4年前(2017年4月22日)、札幌市豊平館で行われた詩の朗読会に、詩人・宮尾節子さんにお呼び戴き、参加しました。当時私は、札幌で朗読をするのは初めてでした。お客さんは40人くらい?来ていました。自己紹介で、私が旭川から来たことをお話すると。会場は騒然としました! 「おい、あいつは富田さんの弟子らしいぞ」「旭川の詩人だ!」。「富田さんは元気か?」「東先生はお元気か?」など、全道から集まっていた詩人の皆様に、お声掛けを戴きました。旭川の詩人であることが、どんな意味を持つのか、この日私は思い知りました。それは大いなる歴史の流れに身を置くことでした。
 詩誌「青芽」。昭和21年に創刊された、詩の雑誌です。戦争の時代、特攻隊を見送る通信兵だった富田正一さんが18歳で復員し、「心のよりどころを作ろう」と決意され、19歳から91歳の間、72年間発行を続けました。日本現代詩人会や日本詩人クラブよりも歴史は古く、全国1500人以上の詩人が関わりました。主宰は富田正一さん。旭山動物園のイメージソングの作詞もされた方です。今年4月7日に逝去されました。富田さんはいつも言っていました。旭川こそ、北海道の詩の原点。全国から名だたる詩人が旭川を訪れたのだ!
 たしかに昭和11年に鈴木政輝が、北海道詩人協会を発足し、4条通7丁目に事務所を構えています。萩原朔太郎と親しかった、旭川の詩人、鈴木政輝。そして小熊秀雄、今野大力、小池栄寿は、3月に上演された旭川歴史市民劇、ザ・ゴールデンエイジに登場しました。小熊秀雄、今野大力は常磐公園に詩碑があります。小池栄寿は小熊秀雄大親友。「交友日記」を残しています。富田正一さんは小池栄寿から学びました。富田さんや、旭川文学資料館・前館長の東延江さんたちが、ゴールデンエイジの流れをくむ、とてつもない詩人たちと、旭川の詩文化を築きました。小熊秀雄の親友である小池栄寿から学んだ富田正一さんが、「心のよりどころ」を作るために人生を捧げた。これはとても興味深いことです。「心」とは何か。
 いま、旭川は中学生のいじめの問題で全国から注目されています。大人である私たち一人一人の胸に突き刺さる事件です。未来を担う子どもたちのために、私たちは何をしてきたのか? 現実的にどういう対応をするかという問題があります。同時に、中学、高校、大人になっても、あらゆる集団や組織の中で、他者と、あるいは自分の心と、どう向き合っていけばいいのか、恐怖や戸惑いを感じながら、多くの人が暮らしているという、普遍的な精神の問題に、文学は立ち向かわなければなりません。
 今から98年前、大正12年、この旭川で、牛朱別川に身を投げた、16歳の少女がいました。山田愛子さん。友人関係の悩み、複雑な家庭環境も背後にあった。そのことを、興味本位ではなく、少女の心に寄り添った、素晴らしいルポルタージュを書いた、当時の旭川新聞の記者がいました。それが「黒珊瑚」、小熊秀雄です。旭川で青春を送った小熊秀雄は、常に弱い側に立ち、行動し、発言した、強くて優しい詩人です。
 
☆2021年、こんな話題が上がりました。

 障がい者の方への過去のいじめの問題。(小山田圭吾さんがオリンピックの仕事を辞退)
 ホームレスや生活保護利用者に対する差別発言。(DAIGOさんが、バッシングを受ける)
 アイヌ民族を傷つける表現が放送される。(脳みそ夫さんやテレビ局が謝罪)
 清水ともみさんの漫画でウイグルの問題が注目される。

 差別や偏見をなくそう、多様性を守ろう、という声が世界的に高まり、SDGsの目標でもあります。しかし、小熊秀雄は、100年前から、弱い側の味方でした。
 皆様、「アンパンマン」をごぞんじですよね? お腹がすいた子に、「ぼくの顔をお食べ」と差しだす。強くて優しいヒーローです。そのアンパンマンよりもずっと前に、小熊秀雄は魚の童話を書きました。「焼かれた魚」、海に帰りたくて、動物たちに自分の体を食べさせて、海へ運んでもらう。猫もねずみも、犬も、カラスも、魚を騙して、途中までしか運んでくれません。海へたどり着けず、骨だけになった魚を、アリたちがかわいそうに思い、海へ落とす。すると魚は、ようやく夢を叶えて喜び、狂ったように泳ぎ回り、やがて砂浜へ消えていく。そういうお話です。
 価値とは何か。お金持ちにならなければ、財産を持たなければ人に価値はないのか。「税金を払わないホームレスの命はどうでもいい」と発言したメンタリストの方がいましたが、小熊秀雄の魚は、どんどん失っていく。動物たちに、体を食べられ、失うことで、海へ近づき、本当の自分になれる。
 たとえば震災で財産をすべて失った方や、犠牲になった方たち、戦争で、家も家族も自分の命も失った人に、あなたには価値がない、資本主義社会のテストで0点ですね、なんて言えないですよね? 言えない。本当の価値とは何か。小熊秀雄の童話を題材に、存在について、哲学の言葉で問いかけた、文芸評論家がいました。旭川から全国にその名を知られ、火の出るような評論を書いた、高野斗志美先生。その高野先生が研究された、旭川ゆかりの小説家・安部公房は、あと何年か生きていたら、ノーベル文学賞を受賞していました。東鷹栖・近文第一小学校に記念碑があります。満州終戦を迎え、社会が根底から壊れるのを目の当たりにした、安部公房は、非常事態が常識に変わる、まさに今のコロナ禍を予言するような小説を、70年前から書いていました。常識が変わる。人類はそうした局面を何度も迎えているはずです。
 子どもの自殺が増えています。自分は間違っている、だってそれが〈当たり前〉だもん、死んだほうがいい。という孤独な魂に対して、いやいや、〈当たり前〉っていうのは変わるんだ。きみは間違いじゃない、きみは素晴らしい、と、文学は呼びかける。
 みんなが〈当たり前〉のようにあの子をいじめてる。ちがうんだ、その〈当たり前〉は変るんだよ、いじめは良くない、あの子を助けよう。「心」を、行動を変える想像力、それが文学の力です。
 この困難な時代の「心」が、旭川の文学によって支えられる、救いとなれる。旭川の文学という心の財産を、多くの方たちに知って戴く、そのための活動を、行って参る所存でございます。これまでも多くの方からのご支援、ご協力を賜り、誠にありがとうございます。今後ともどうか、ご指導、ご鞭撻の程、宜しくお願い申し上げます。

 

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