詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

■海東セラさんの個人誌「ピエ」(Vol.23 2022 February)

■海東セラさんの個人誌「ピエ」(Vol.23 2022 February)を拝受致しました。誠にありがとうございます。
 田中宏輔さんの詩篇「順列、並べ替え詩。3×2×1」、「雨」の「道」は「ひと筆」であり、「夕凪」の「ハンカチ」は「ひと刷け」、「水平線」の「欠片」の「全力疾走」…今まで見たあらゆる映画のシーンが潜在意識から噴き出してくるような詩体験です。句点「。」を6つずつ与えられた各連が、美術館の壁に掛かったポップアートの絵画のよう。
 長田典子さんの「ブラッディ・マリッジ」、時空を超えた婚姻…、語り手の日記を読むという重層的な構造をもつカルロス・フエンテスの短編小説「チャック・モール」をさらに重層的に…詩人が「ニホンの部屋で読者をしていたわたし」=読者として作品の登場人物に憑依し、さらに作品の登場人物が読者に憑依するだけではなく婚姻を結んでしまう、神話構造を無限に拓く実験的作品。「きみの心臓が載せられぷくりぷくり脈打つのを凝視していた/ぷくりぷくりぷくりぷくり時空の鼓動が聞える方に進んで行くと」…「たくさんの過去とたくさんの現在とたくさんの未来が気球のように漂」う詩の無限の領土に届き、結ばれるのだろうか。古代の血脈の「ぷくりぷくり」…が波の水泡のごとくずっと耳へ螺旋状に残るようです。
 稲葉祥子氏の「贋夢譚 鏡」、「窓外の風景が映っている」磨かれた鏡、「人や車が思い出したように鏡の中に現れ、また消える。」、目を合わせた瞬間に顔色が変わる、何度も見比べる鏡とキノコと短歌の不思議な迷宮に迷い、安部公房の後期短編小説を想起しつつ…錯覚を信じる脳の力に希望を感じました。美容室の洗髪台で、左右の脳で実感を得て、間違いを見逃している、「黒いどろどろ」や「塀」の盲点、確認することも「憚られる」、贋物と本物の入り混じった左右対称の加湿器の軌道、同じ風景でも飽くなき好奇心を掻き立てられる、愛すべき世界に浸りました。
 何度も拝読させて戴きます。笠井嗣夫さん訳のディラン・トマス、海東セラさんの御作品や、詩誌に添えられたご紹介のお手紙、メーテルランクの文章につきましても、改めて感想をアップさせて戴きます。貴重な勉強の機会を賜り、心より感謝申し上げます。

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