詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

■林美脉子さんの詩集『レゴリス/北緯四十三度線』(思潮社 2021年)

■林美脉子さんより御詩集『レゴリス/北緯四十三度線』(思潮社 2021年)、『タエ・恩寵の道行』(書肆山田 2017年)をお送り戴きました。誠にありがとうございます。
 レゴリスとは固結していない堆積物の総称。岩石の表面を覆う堆積された歴史の粒子。一冊の「屯田兵手蝶」から紐解かれる詩集の試みは壮大なスケールの長編叙事詩のよう。「加害者の末裔」であるという自覚と同時に、女性として「抑圧された立場にある」ことを明確に表明する覚悟が、読む者の心を揺さぶる。P39-41に川村兼一さんの怒りの言葉。P24「廃線鉄路」に「隣国から拉致された囚人たちの死体」…旧樺戸集治監強制労働の告発。P26「雪の嗚咽」、P32「オべリスク」、絶唱です。ネルーダのマチュピチュのように拝読。「侵略者の末裔」ということを、いまの右翼左翼といった政治的な利害関係を抜きに多角的に歴史を学び、考えなければならない。そしてこの魂を揺さぶるほどの作品の強度に気づかされるのは、例えば詩や芸術が社会的なメッセージを発することは、海外ではラップやポップ・ミュージックなど若い世代からも広く行われていますが、日本では意見の伝え方が、ネットの炎上やSNSの集団いじめのような、いびつな方向へ向かってしまっている。これを正さなければ言葉の芸術である詩の復権はできない。
 SDGsの「誰一人取り残さない」原則とは多様性であり、色んな人が色んな考えを持って、様々な意見を述べあい、多角的に反証しあう「開かれた社会」(カール・ポパー)を目指すべき。政治的なメッセージを直接書くだけではなく(答えを提示するのではなく)、どう伝えて、受け側に自ら考えさせるか。芸術の果たせる役割は大きいと、林美脉子さんの詩群から気づかされました。心より感謝申し上げます。

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