詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

■ 「スプーン」 柴田望 2022-2-27改稿

「スプーン」        柴田望
*

(…死んでいった人たちに生かされている)


胃を
裂くと
ごみ袋と
石油溢れる
プラスチック
ブルーシートの
ブランコ、滑り台
いじめは隠蔽された
ごみを飲まされて自殺
高い低い波動が交錯する
社会的距離追い詰める傾き
侵略で栄えた種族加害の末裔
詩は私と同じでこの世にいない
私は法に触れることはしていない※1
スプーンがじぶんで曲がってくれる
作品は作者ではない作者は書かされる
作品が作者を選ぶ読者に問い形式を選ぶ
教科書に傷はないし検査は全員陰性でした
脳は騙す悩みなんてないと力づくで歪曲する 
君が曲げるのではない、スプーンが自ら曲がる
君は心でも体でも自撮りさせられた画像でもない

シガー・ロスの『()』は課された粒子 (名前でも、
ヤニス・リッツォスの『括弧』も波動 (傷痕でもない
/も=も句読点も砂のように生き絶え (お金でも、
水槽でスプーンを飼って肖像を描いた (階級でもない

夜中に電話、お子さんは濃厚接触者かもしれません…
夜中に電話、お子さんの遺体か、確認してください…
ウェールズ出身のトマスはラジオで英語訛りを名乗る
IDでもPasswordでも LINEのトーク記録でもない
君は響いていた 透明な殻の中で痛いほど響いて割れ
外を春の兆の波動で木霊して ありったけ響いていた… ※2
   
球場も、神社も、鉄の橋も、昏い緑の車も   君ノ死ノ
鉄の味がする 桜並木が統合の前兆を示す   前ニ
一人の死と一〇人の未来 世論が怒っても   詩ハ
家来の前でエラそうにしている役人たちは   無力ダ
謝罪しない うるさい母子家庭だなと蔑む   発言シナイ 
楽勝だ認知しないことでいじめに加担した   卑怯ダ
旧い校舎に吸着した祖父母の記憶が見破る   詩人ハ
「千よのふか いた﹅く桶の そこぬけて   モウ何モ
水たまらねハ 月も宿とらず」だよねと※3  書ケナイ…
  
(…死んでいった人たちに生かされている)
(…君は心ではない 体でも画像でもない)
(…声として発せられる前の言葉でもない)

「年齢には限定がなく、脳に記憶さ      
れた言語数がまだ著しく少ない幼    
児でも何かにほんとうに心を動 
かされている時、内海を満た
しているのは言葉にならな
い〈詩の心〉でしょう。」※4
怒りと激しさと静けさ
義梵と海をデータ化
創作ハ容疑デアリ
指名手配サレル
証言を廃棄し
海洋を汚染
死の波動
ひと匙
私と
心…

※1 「私自身は、法に反する行動はしていない、ということだけはお伝えさせていただきたいと思います。」
   『娘の遺体は凍っていた』(2021年 文藝春秋刊)「全文公開・Y中学臨時保護者会」教頭の発言より
※2 「わたしが響いている/透明な殻の中で響いている/ありったけ響いている/外はもうすぐ春らしい」
   廣瀬颯爽彩「未知へ」より 『娘の遺体は凍っていた』(2021年 文藝春秋刊)
※3 仙厓義梵 桶画賛(草稿)「千よのふ哥に」
※4 佐相憲一「詩想、生きることの夢のなかで 1」 『指名手配』3号(2021年 文化企画アオサギ

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