詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

■ 『渡辺宗子 弦 詩集成』 2021年12月22日

■渡辺宗子さんの個人誌「弦」は1992年4月から2021年1月までの間、全79号。最後の「弦」79号は長屋のり子さん、嵩文彦さんの御尽力により発行されました。長屋さんをはじめ皆様の御尽力により、『渡辺宗子 弦 詩集成』が、宗子さんの逝去されたお日にちからちょうど1年後の2021年12月22日に上梓されました。「弦」に掲載された渡辺宗子さんの全詩作品がここに収められており、巻末に毛毛修一さん、下川敬明さん、本庄英雄さんが感動的な文を稿せておられます。本書は『現代詩手帖』(思潮社)3月号の詩書月評で須永紀子氏により「渡辺は和田徹三に唯識哲学を学び、独自の詩的世界観を確立、吉本隆明の「北海道横超会」の世話人でもあった。ゆらぎのないことばがきっちりとした輪郭を持って並んでいる。」と紹介されています。渡辺宗子さんの詩はどれも、思想なき時代への警鐘として、鋭い詩句を放つ弦を張り、いまも鋭く、生々しく響きます。
 最初の出会いは…確か2008年頃で、柴田はその頃オリジナルの楽曲CDの付いた詩集をいくつか発行しており、北海道新聞の「道内文学」で取り上げて戴きました、そのとき同欄に「弦」のことが紹介されていて、興味を持ち、手紙と拙作をお送りし、文通が始まり、「弦」を毎号戴いておりました。高橋秀明さんが吉田一穂勉強会を始められてお誘い戴いたとき、メンバーの中に渡辺宗子さんのお名前もあったのですが、そのときは参加できず、2017年に安部公房の朗読会をやりますとお手紙を差し上げた際に、なんと旭川へ来て戴き、寒い2月に旭川市中央図書館で行われた朗読会にご参加戴いたのでした。東鷹栖支所の安部公房の展示をご案内したり、近文第一小学校の記念碑もご覧戴きました。その後、北海道横超会の北川透さんの講演にお誘い戴いたり、宮尾節子さんの札幌豊平館での朗読会や、瀬戸正昭さんの「饗宴」の詩話会など、様々な会で運命の再会。いつもお会いできるのが嬉しく、お優しい笑顔で、時には厳しく貴重なご指導を戴いたり、それが本当に温かく、深く感謝致しております。2018年秋に札幌すみれホテルで行われた帷子耀.さん、阿部嘉昭さん、金石稔さんのご詩集の出版祝賀会では、帰りに地下鉄の駅までご一緒に札幌を二人で歩きました。「北海道横超会Ⅱ」や支倉隆子さんの詩劇の会でもご一緒でき…、北海道詩人協会でもお会いしていました。詩祭での小熊秀雄の朗読を褒めてくださったけれど、「小熊秀雄もいいけれど、柴田さんはやはり安部公房安部公房をやりなさい」と手紙で励ましてくださいました。いつのことか、小樽の白鳥番屋だったかと思いますが、「あなた、仕事があるんでしょう、こんなことばかりして」と本気で柴田を心配して怒ってくださったこと、忘れられない思い出です。2020年12月20日に発行した「フラジャイル」12号には、渡辺宗子さんの詩篇「雪だるまの地平線」を冒頭に掲載させて戴きました。その12号は20日レターパックでお送りして、21日には届いたはず。宗子さんにご覧戴けたでしょうか…。
 「フラジャイル」10号に収録させて戴いた2020年6月のサッポロ・アートラボ[サラ] での髙橋純さん、嵩文彦さん、柴橋伴夫さんの鼎談「文学における普遍性と特殊性」を、最前列で、柴田は渡辺宗子さんのお隣の席で拝聴しました。質疑応答のとき、一番最初に宗子さんは手を挙げてご発言され、その後、柴田の太ももを、ポン、と叩いたのでした。ほら、黙っていないで、あなたも発言しなさいと。
 いま、この350ページにも及ぶ、大著『渡辺宗子 弦 詩集成』を手に、また励まされているような気がするのです。ほら、黙っていないで、世界の現実に向き合いなさい。あなたも発言しなさいと。渡辺宗子さんの「弦」はいつも、世界の現実を鋭く照射し、抵抗の狼煙を挙げていました。
*
 おおうー おおうー
確かな応答
森は抵抗に生きているのだから
燃えさかり命へ浄化する
切り断崖に立つ
拒絶と渇望のはざま
下草の芽吹きを抱いて
火だるまが転がっていく
水の巡りがこんなにも灼く
(渡辺宗子「火だるまの地平線」~「弦」第41号)

f:id:loureeds:20220306201715p:image