詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

■柴橋伴夫さんより『絢爛たる詩魂 沙良峰夫』(藤田印刷エクセレントブックス 2021年10月2日)

■柴橋伴夫さんより『絢爛たる詩魂 沙良峰夫』(藤田印刷エクセレントブックス 2021年10月2日)をご恵送戴いております。誠にありがとうございます。かつて北海道詩人協会より発行された『資料・北海道詩誌―明治・大正・昭和ー』(1993年)で山本丞氏が執筆された第5章「後志(岩内・倶知安)」に、p95 「この地区出身の著名な詩人に、岩内町出身の沙良峰夫(明治34・3・11~昭和5・12)(中略)なども挙げられるが、活動地が東京であることから、ここではその名を記すにとどめたい。」とあり、謎の詩人として名前だけは知られており、雷電温泉には詩碑もある、稲垣足穂の「お化けに近づく人」「北極光」のモデルである等、伝説の存在でしたが、作品の全貌を読める機会はなく、ベールに包まれておりました。
「「幻の詩人」と呼んで、事を済ませていないか。この〈幻〉を消すために、資料をあつめ、沙良が生きた時代を活写することに努めた」と柴橋さんのお言葉にあり、情熱を傾けられた素晴らしいお仕事。この一冊で沙良が生きた時代に交流した文化人、文学者の言葉や、どんな時代であったか、震災の影響や病の状況、年譜、写真も豊富で、何といっても作品(詩集「華やかなる憂鬱」)、訳詞、評論まで読める。昨年10月に市立小樽文学館で企画展「生誕120年 詩人沙良峰夫展」が行われたとのことですが、この一冊が企画展のようであり、図録を超えたものです。
 詩作品はボードレールの影響が強いですが、どの作品からも、読者に秘密を打ち明けるような声が聴こえてくるようです。p126「沙良は部屋にフランス人形を「住人」とした。銀座不二展のショーウインドーを飾っていた一体。それを買い求めた。偏愛する姿はあたかも一人の〈女性〉を愛する如し。」とあり、一体のフランス人形の魂と交流した、フランス人形を入口として仮想空間にアクセスできた、詩の領土に触れていたのだと考えられます。会話の様子を読者に視せています。「ムウランルウジユや/バルタバランの話でもしておくれ/昔の好い人のことを/つひしゃべったところで/ちっとならなに、構やしないさ。」(「春の日のフランス人形」)。西條八十川路柳虹などの優れた詩人を師と仰ぎ、詩誌『白孔雀』や『現代詩歌』『棕櫚の葉』などに作品を発表、28歳で早世した詩人・沙良峰夫を現代に蘇らせる貴重な一冊。
 過去を学ぶことが未来に繫がりますので、鈴見健次郎の復刻版詩集が昨年発行されましたが、鈴見健次郎や鈴木政輝、加藤愛夫のような北海道の詩人の再評価もぜひ今後、取り組まれなければならないと考えております。

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