詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

■『パラタクシス詩学』 著者:野村喜和夫・杉中昌樹(水声文庫)

■『パラタクシス詩学』 著者:野村喜和夫・杉中昌樹(水声文庫)を、杉中昌樹さんよりお送り戴きました。心より感謝申し上げます。詩の書き方、読み方について、14の奥義と実践(1:パラタクシス(並列性) 2:浮動性 3:子供の歌 4:中間休止 5:ストレッタ(追迫部) 6:ルサンブランス(類似) 7:メシア 8:聖なるもの 9:黙示録 10:トランジット(通過) 11:メタファー 12:動物性 14:世界/セカイ)が実況中継で記された恐るべき魔導書です。ぎっしり論や対談の書かれた本かと思ったら、お二人の書簡であり、毎回杉中さんがテーマについての問題提起と「野村さん、〇〇〇の詩をお願いします。」とリクエストを送り、野村氏が返信、時には議論しながら実践の詩を書かれる、その野村詩集のようでもあり、次はどんなお題だろう、どんな風に書くのだろう、こうきたか!など、わくわくしながら読み進めました。技法についてのお二人の十分な説明があった上で実践が書かれ、その書いた結果(詩作品)についても意見が交わされる。詩論、言語論、聖書や音楽、ヘルダーリンアドルノアルトーランボーボルヘスマラルメベンヤミン山本陽子も出てきて、非常に勉強になりました。たぶん野村氏の詩だけを最初に読んで、次にこの本を通して読めば、詩の読み方がまったく変わってきますし、お二人によって解明された謎からさらに次の謎が生じるスリリングさをも味わうことができます。
 9の黙示録のあたりからだんだん気づき始めていたのですが、14の「世界/セカイ」で確信したのは、詩の創作とは、宇宙の誕生の瞬間に触れるような行為であり、結果的に世界の仕組みを暴く行為なのだということ、また、最後に番外で「コロナ」がテーマとなります。新型コロナの危機について、杉中さんが凄い表現で、こう語られています。「この危機の本当の恐ろしさは別のところにあります。メタファーが世界を覆い尽くし、メタファーが世界を滅ぼすということです。メタファーによって、正常な意味が次々に乗っ取られ、メタファーによって次々に書き換えられていく。このメタファーの機能に対する防御規制のようなもの、すなわち免疫細胞が、一部の症例では暴走し、メタファーを破壊するだけではなく、本来の意味すらも破壊する。」…この文の6箇所の「メタファー」をそっくり「戦争」に置き換えると、街が廃墟に変えられていく状況が浮かびます。「どれほどの犠牲が生じるのか。もはやそのとき、世界は荒野であり、世界は廃墟となってしまっているのではないか。だが、ベンヤミン風に言うなら、そのような瓦礫のなかから、私たちの新たな未来、新たな希望を紡ぎ出すのが、天使なのではないでしょうか。」(p242 第一信補遺)。野村氏が「詩的メタファーもまた言語を乗っ取りますが、しかし言語を殺してしまうことはありません。むしろ豊かにします」と返信。クレーの「新しい天使」に与えられたベンヤミンの解釈が引用され、天使のまなざし、目撃者としての「詩人のまなざし」、崩壊へ軟禁できない創造に繫がる光のイメージへ導かれました。

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