詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

■ 「 休め! 」  柴田望

「 休め! 」  柴田望
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 字を視る(のではなく)
 音を聴く(のではなく)
 音を出す(のではなく)
 結果を知る(のではなく)
 「TACET」と指示された三つの楽章
 四分三十三秒の持続
 人生と遊離している
 音は死後も続く
 作曲、演奏、聴取は音響を表象しない
 どのような楽器で
 どのような時間の長さで
 直線ではない始まりと終わりで
 二度と再現できない
 過ぎていく構造の投影であるかは
 一切、関係しない
 沈黙が契機となる
 意識の流れを計る
 
 黙ることを強いられていた
 黙ることは変化した
 紙にインクを落とす
 創造の最終的な行為が《変化すること》に依存し
 偶然を装った血なまぐさい歴史
 忘却を強いられてきた
 許された《賛成》の葉脈に
 《反対》が仕掛けられた
 どんな言葉が書かれているか
 どんな絵が描かれているか
 どんな音を禁じるかは
 一切、関係しない
 音は死後も続く
 真空の無音は理論に基づく
 音楽が侵略された
 沈黙を要求された証に
 指示だけを作品として採譜する

 録音は誰かの指示で
 再生の機会を剥奪された
 意味を剥奪して歩き出す音符を
 侵略した、された側として
 喉元に鋭く突きつける議論を
 想像力が与えるとき
 奪った自覚がない側が
 書く手と読む機会を奪う限り
 音符は行為への指標
 与えられた沈黙(ではなく)
 自由は幻想(ではなく)
 完全な無音は存在するのか?
 作曲者の設定した枠内では
 何が起きてもよいのだから
 過去との対話から逃れ
 演奏以前に為された、いかなる決定も
 経験に乗り越えられるだろう
 現実にこうして過ぎる
 音はいかなる形式的な制約からも自由に流れる
 SNSが監視している
 ヘリコプターの羽音に紛れる!