詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

■第55回小熊秀雄賞贈呈式 受賞作 津川エリコさん 『雨の合間』(デザインエッグ)

http://blog.livedoor.jp/ogumahideo/archives/52173921.html
■第55回小熊秀雄賞贈呈式

受賞作 津川エリコさん 『雨の合間』(デザインエッグ)
 ※アイルランド・ダブリンよりオンライン参加

 日時 2022年5月14日(土)午後3時から
 会場 アートホテル旭川旭川市7条通6丁目)

 記念講演 平山秀朋さん(小樽在住)
 演題 『小熊秀雄をめぐる文学的営為~旭川椎名町、小樽~』
  HBC社員だった平山さんの父親の遺品の中から、小熊の妻・つね子の肉声テープが見つかった。つね子が語る、夫・小熊秀雄の実像とは…。

 参加費 500円(会員外700円)

■贈呈式の後、コロナ対策をしっかり取って懇親会を開きます。軽いアルコールと軽食を用意します。参加費は2500円。ぜひ、ご参加ください。
 ※新型コロナウイルス感染防止のため、発熱等体調がすぐれない時にはご参加をお控えください。ご参加される場合は、必ずマスクをご着用ください。(小熊秀雄賞市民実行委員会ブログより)

■『雨の合間』、「雨」とは何か。詩は読む人によって、読む時代や場所によっても、言葉の意味や彩りが変わります。
 いま、世界ではあらゆる言語による、戦争に勝つことを目的とした兵器としての、さまざまな言語による情報の「雨」が、絶え間なく、ウクライナでは砲弾、ミサイルの「雨」が人々を、街を、襲っています。その「雨」がいっとき止んで、太陽が差す「合間」には、一体何が起こるのでしょうか。
 「ナメクジとカタツムリもお使いに行こうと」 「雨の合間を待っていて濡れそぼった/繁みから這い出てきた…」こう書いてますよね。 雨が止むのを、じっと待っていた小さな命が「濡れそぼった繁みから這い出てくる」。土の中から芽が出てくるような小さな命が動き出す。雨の合間の沈黙は決して無音ではなく、そんな微かな命の、希望の音に、耳を傾けるときです。
 小さな命が草むらから道路に出て、自転車に踏みつぶされ、「黒いダリアの押し花みたい」に「微かなスジの細部」をあらわす。小さな死が美しく表現されています。雨の合間の沈黙のときは、死を見つめるときでもあります。
 詩の想像力が、時間を止めて、『雨の合間』の沈黙の中で、死んでいった人たちの声に耳を傾ける。いま、多くの方が戦争で亡くなっています。そして新聞やテレビで報道される大きな声だけではなく、その陰で小さな虫の死のように、公の場では注目されない、幽かな声、微かな命の動きに届く。この詩集に収められている、「ページをめくる人」、「こんなにも濃い青」、「十月の風」など、他にも忘れられない作品がたくさんありますが、まさにそうした「沈黙に耳を傾ける」、人類の辛い時代に、文学の無限の想像力をもって向き合い、詩の力が、希望へ導いてくれる作品として鑑賞致しました。
*

 今夜もまた眠られずにいる者の目を覚まさせ続け
 嘆きの歌で動揺させ何度も寝返りを打たせよう

 冷たい星を闇の中でさらに光らせ
 落ちて来る光を夜明けまでに貪り食らおう

 私の母は誰なのかとは訊かないで
 彼女はただもう冬の匂いに過ぎないのだから

 かつてないこの夜をむしろ眠らずにいたい
 闇を抱えて冷たい石を飛び越えながら

 岸辺に沿って次から次へ
 鉄色の水にさざ波たてて   
          (「十月の風」『雨の合間』)

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