詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

■ 「 スプーン 」    柴田望

「 スプーン 」    柴田望
*

 枝分かれして高速へ続く
 国道トンネルの周辺にゴミが散らばる
 缶やペットボトルが中の液ごと
 見たこともない形状に醜く潰れている
 荒れた粒子を纏う
 宇宙から見たら日本はどんな姿か?
 数年前の菓子や弁当やレジ袋
 ステンレスの捻じれたスプーンが
 死体のように転がっている
 薬莢のごとく吸い殻が散る
 まるで戦場…
 世代の苦しみを映す現代アート
 再利用できないか?
 アスファルトだけではなく
 草木を蝕むプラスチックを
 火ばさみで摘む
 少し歩くと袋は命を帯びて胎動し
 決壊への意志は育つ
 収集運搬を経て、最終処分場へ埋葬される
 誰がこんなに捨てるのか? 
 神をも恐れぬハラスメントの隠蔽のごとく
 法に触れても謝罪しない
 環境を傷つけることができるなら
 心や命を壊せる (心と魂は違う)
 被害者であり、加害者である
 予算に応じて整備されていく
 縁石に錆や思惟が附着している
 匿名の靴や、動物の遺骸や、事故の破片や
 女性の下着も落ちている
 どんな目に遭ったのか?
 公共の足元に、自転車で猛進する傘の画が
 無音の叫びのように沁みる
 雪が融けると公けになる
 道路は街の血管だから
 血は汚れているのだろうか?
 浄めることはできないか?
 見て見ぬふりの犬の散歩や走る気配とすれ違い
 (生きている人だろうか…)
 トンネルの反響や影に脅えて
 日曜朝、たった一人で
 勝ち目はない、権力も支援もない
 泥沼を牛乳ひと匙で漂白する作戦
 ビニールに雨汗が落ちる
 拾っている私の姿が見える日は
 誰も捨てない…
 無心でやると、感謝されたり
 手伝ってくれる人が訪れ
 波動の潮目(チャンネル)が変わった…
 言葉より行動が効果的だ
 ワクチンか何かに応用できないか?
 あの鯨の胃袋を連想させるほどの
 ゴミは減っているようだ
 拾うのに夢中で
 頭を轢かれて私は死んだ
 歩道に白い祭壇…
 ペットボトルと花束が供えられている
 やめてくれ、ゴミが増える
 パトカーが巡礼している
 トラックがタバコを飛ばして小さくなる
 スプーンの捻じれが進化の過程で
 その時間を掬う

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