■葉山美玖さんの新詩集『春の箱庭』(空とぶキリン社)を、一本の映画のように鑑賞しました。なぜ映画のようであるかというと、舞台は詩人の住む世界。アパートの部屋、青空、お煎餅屋さん、神社、牧場、病院……案内してくれる映像のカメラは詩人の視線。日常の出来事や触れ合う人々、記憶の中の人々、姉御さん、ちひろさん、みちるちゃん、てきぱきとした相談員、親切な職員、神父さん……、決して大きな事件ではない一つ一つの場面を経て、そのバラバラの切ない記憶の破片が、深い秘密の核芯に迫る。父のこと、母のこと、自分を映す鏡のこと……。「出帆」という詩篇と、作品「春の箱庭」の中の最後の行に「出航」という言葉が使われていること、詩人の自分自身と向き合う姿勢、勇気に、深い感銘を受けました。
「閉じ込められた私の存在を
打ち砕き
眼を開かせ口をこじ開け
世界の成り立ちというものを教えてくれる人を
ずっと待ってきたのだと」(「出帆」)
世界の成り立ちの不思議…人と人との関りについて、この詩集にこめられた言葉たちが、一緒に前へ歩いてくれているようで、本当のことを包み隠さず、多くのことを教えてくれているように感じています。こんな詩集を待っていました。何度も読ませて戴きます。心より感謝申し上げます。
★空とぶキリン社の本 葉山美玖詩集『春の箱庭』
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