詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

■ 「 世界図書館 」  柴田望

「 世界図書館 」  柴田望
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 中島博美さんから渡辺宗子さんの写真をたくさん送って戴いた。十五年前、まだ詩人との交流がなく、音と絵の付いた怪しげな詩集を作り、ネットで流していた頃、北海道新聞の「道内文学」で紹介された。同じ欄で「弦」の存在を知り、宗子さんへ送った。お便りと「弦」が届いた。柴田の詩を真面目に読んでくださった。お会いしたいと思ったけれど、何年も叶わなかった。仕事のために死んでもいいと本気で考えていて、理解できない人たちに誤解されていた。宗子さんは電話をくれた。フライヤーが届いた。雨の中を迷いながら白石のカフェ、プランテーションに辿り着く。渡辺宗子さんと中島博美さんが笑顔で迎えてくださった。高橋秀明さんが書籍を並べて、会場を見事に作り上げていた。二〇一六年三月十九日〈第三回北海道横超忌〉、北川透氏の講演「言語表現と権力意志」。たとえ一人の作家からしか影響を受けていなくても、その作家は複数の本を読んでいる。その複数の本の作家たちがさらに多くの過去の本を読んでいる…、膨大な人類の時間の連続性を「世界図書館」と呼ぶ。一人の意識を遥かに超えた仮想空間にアクセスし半狂乱になった夢遊状態を《自己表出》と呼ぶ。ランボードストエフスキーも「世界図書館」に手を摑まれ次の行を書く。創業者の仕事を社員や次の社長たちが継承するようなものですか? と質問した。それはそうだけれど、どこかで途切れるものではない、と北川氏は答えてくれた。涯てしない連続性、永劫回帰への接続。《自己表出》は「価値」であり、「時間の概念」。ザ・バンドの音楽には「カントリーやイングリッシュ、スコッチ、ウェールズのコーラス、同時にミシシッピのブルースもある」(マーティン・スコセッシ)。この教えは渡辺宗子さんの詩を読むとき役に立った。休憩時間に宗子さんは北川氏に「弦」をプレゼントしていた。私は現代詩文庫48『北川透詩集』(思潮社)、あの舌出しペロペの…、「風景論」のページにサインを貰った。大岡信には批判されたが、菅谷規矩雄が擁護してくれたと北川氏は話してくれた。第二部では道内外から集った錚々たる文学者たちによる朗読やスピーチ。詩祭の間、私はずっと渡辺宗子さんの笑顔の隣で、贅沢な「世界図書館」に浸っていた。石井眞弓さんの書が素晴らしかった。長屋のり子さんが司会で、村田譲さんによる「デモクリトスの井戸」の見事な朗読で会は終わった。

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