詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

「 休め! 」  柴田望

「 休め! 」
*

 《帝国》の《帝》が、消える

 特高が詩人を殺す理由が消えた
 勝つための虚しい記事が
 前線との交信が消えた
           
 鏡板に刻まれた署名
 堂前松太郎、野口弘文、萩原朔太郎川端康成
 牧野信一山之口貘、今野紫藻…
 机は空襲で燃えた…

 暗黙の継承が途絶え
 時局は脚色
 階級づけられたる、帝王、賤民…
 (グローバル金融資本と格差社会を予見)
 純化への一つの責務
 OSは壊れ、経済の客体に飲まれ
 異端として無窮

 …マルキスト今野大力は死んだ!
  
 Metaverseのルールが、変わる
 自由詩の価値を求めて
 世界の歴史を潮宗する
 峻厳な儀式法典
 定型七行の国詩を出発
 霞む陽炎、蜃気楼、虹の分泌
 構造をはぐくむ流れが、消えた
   

 汚いヴェニスのような海面
 強い翼の夜の唸りに裂け
 早くも我々は世界国家の観念に到達していた
 両国橋を渡り大河端から浜松公園
 喫茶ゴオルドでレモンティを飲む
 安楽の毒薬を魔子は夢見る
 猜疑のこもった悪魔的な笑顔
 浜町の噴水が止まる
 昼の青い月に罹る黒い瞳が、消えた
 
 誤謬を覆う鏡
 空虚(うつろ)な入れ子
 他を充実せしめる力はない

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