詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

中尾敏康さんの詩集『暗夜巡礼』(土曜美術社出版販売)

■詩誌「晨」、「薇」でいつも作品を拝読させて戴いております、中尾敏康さんの詩集『暗夜巡礼』(土曜美術社出版販売)を拝読させて戴きました。ご恵贈賜り、心より感謝申し上げます。
 例えば「おれは女の麦粒腫に/かぎりなく薄い銀の膜を/鍍金のように被せて/そのまま川に沈めた」(「鈴の音」)や、表題作「暗夜巡礼」の「そして写真の中で/俯いてはにかんでいた貧しい少年が/独り昏い海の底に/声さえたてずに沈んでいったことを/誰も知らない」のようなハードボイルド風な語り口で、激動の時代をくぐり抜けた視点から、人間の存在の根源に迫るような詩の書き手で、中尾敏康さんのどの作品にも潜む独特なニヒルな昏みに惹かれます。
 この詩集の最後から二番目に置かれている(以前「晨」に収録されていたと記憶しています。)詩篇「金魚」が少し異色な感じで私は好きで、金魚売りを追いかけた少年時代の罪、小さな死と少年の悲しみの理由、祖母を想う「なつかしい痛み」……昭和の情景が夕闇のように広がっていく。「ふるさとに眠る金魚は/とうに土になっているはずだ/あのとき/祖母が金魚と一緒に埋めてくれた/少年の罪も土に還っているだろう」(「金魚」)。

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