■ 『群狼疾走』(地湧社 2022年3月3日)
詩・佐波ルイ 版画・大島龍
開園55周年を記念して、イメージソング(富田正一さん作詞)に合わせたダンス動画をSNS投稿すると抽選で記念品が贈られるキャンペーンが今話題の旭山動物園に、「オオカミの森」があります。100年前の北海道の自然が再現された円形の放飼場をシンリンオオカミが走り回り、吠える、様々な角度から観察できる施設です。その建物の壁にあべ弘士さんの絵で、アイヌとは共生関係にあったエゾオオカミが本州から渡って来た人間によりいかに駆除され、絶滅へ追い込まれたか、象徴的害獣だったエゾオオカミが消え、次にエゾシカが害獣となる…血塗られた歴史、圧巻の「エゾオオカミ絶滅~北海道の原罪~」が展示されています。
アレハ 叙事詩?
ノヨウナモノ
我が一族の絵巻物
だった・ような‥
(「五月 芽吹く イノチおどるときに」)
この『群狼疾走』を愛読しつつ、旭山動物園「オオカミの森」建物の内壁にぎっしりと、大島龍さんの版画が描かれ、佐波ルイさんの詩が記されている夢をお告げのように何度も見て、どちらの壁が現実か、あやふやになりつつあります。それは動物園で初めて猛獣を間近に見たときの、あの本能が危険だと訴えるときの、喉を噛まれそうな冷や汗の恐怖が、この本のどのページのオオカミからも迫ってくるのと、言葉が一瞬にして生命の河の根源の核へ、太古へ疾駆するように放つ閃光や、研ぎ澄まされたユーモアが、さらに漆黒の恐怖を煽るからでしょうか。
「ワタクシ」とは誰なのか。オオカミか、麒麟か、紫陽花か、カフカか、セザンヌか、ポール・ニザンか…。呪いの運命の反復を遥かに超えた、区別できない(誰でもない)、生命全体のタペストリーが、聲の主として響いてくるようです。
此の世に
在ること 心地よく
キミ*ワタクシ
受け継ぎ 渡す
生命 浮かび 沈む
(「四月 旅立ちの行方 群狼*ヤドリギの下」)