詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

■「 星 ( 「、」を置く ) 」 柴田望

「 星 ( 「、」を置く ) 」 柴田望
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 主役不在のお祝い…星を置く、昭和13年旭川北海ホテルの寫眞 ※
 受けた使命は鞣され放射する内地へ還ることさえ不思議な骨
 静かな河石橋いたる所苔むす沈黙の文字盤内皮が境を晒す
 仏法僧の鳴き声に耳を欹てた夜禁忌の未然形進軍の乱れ
 石北トンネルのレールの稜線古里の踏み絵歩哨は携え
 地を裂く開拓後も東町楡科に吊られていた勧業の鐘
 葉の擦れが雨音のように鳴り露も雨の巣を丸めて
 山の満ち欠け平原の宿営ヌタクカムシュペ象る
 砂塗れのノート七行南京落城を模して徐州へ
 琉瑠河から北支討伐行焦げた思慕を植える
 銃声に兜を上げて残響は重なる層の野営
 太古の威を祀る転写光学の受像塵の俤
 詩の寺の寸の手足を切り落とす背嚢
 夜襲の病院を悼む垂直地図の虚空
 濁流の真鍮に囀る霙(みぞれ)、
 泥の揮発電信の現実(うつつ)、
 戦友を悼み定型に身を伏す    暁
 汽車に走り寄る豎子たち    白日
 近似性の牧人膝に眠る    弔意の
 日月光華に野は肥え    三つの章
 河南河北への小路    球状の波形
 蘆満橋の獅子像    何が書かれて
 帰還兵を送る    いるかではなく
 蒼穹うらら    書かれない何かを
 高い城を    沈黙は無音ではなく
 溶かす    ありのままを悼む失語
 黄塵    紙裏に滲む歌の影の出立
 趾    選ばれた読点が採譜される

※詩集『従軍』出版記念会 昭和13年6月15日
 加藤愛夫が出征中のため、義弟瀬戸正三を囲み、旭川の北海ホテルで、当時、鈴木政輝のもとに身を寄せていた千家宏(千家元麿の子)をまじえて催された。

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