「 星 ( 「、」を置く ) 」 柴田望
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主役不在のお祝い…星を置く、昭和13年旭川北海ホテルの寫眞 ※
受けた使命は鞣され放射する内地へ還ることさえ不思議な骨
静かな河石橋いたる所苔むす沈黙の文字盤内皮が境を晒す
仏法僧の鳴き声に耳を欹てた夜禁忌の未然形進軍の乱れ
石北トンネルのレールの稜線古里の踏み絵歩哨は携え
地を裂く開拓後も東町楡科に吊られていた勧業の鐘
葉の擦れが雨音のように鳴り露も雨の巣を丸めて
山の満ち欠け平原の宿営ヌタクカムシュペ象る
砂塗れのノート七行南京落城を模して徐州へ
琉瑠河から北支討伐行焦げた思慕を植える
銃声に兜を上げて残響は重なる層の野営
太古の威を祀る転写光学の受像塵の俤
詩の寺の寸の手足を切り落とす背嚢
夜襲の病院を悼む垂直地図の虚空
濁流の真鍮に囀る霙(みぞれ)、
泥の揮発電信の現実(うつつ)、
戦友を悼み定型に身を伏す 暁
汽車に走り寄る豎子たち 白日
近似性の牧人膝に眠る 弔意の
日月光華に野は肥え 三つの章
河南河北への小路 球状の波形
蘆満橋の獅子像 何が書かれて
帰還兵を送る いるかではなく
蒼穹うらら 書かれない何かを
高い城を 沈黙は無音ではなく
溶かす ありのままを悼む失語
黄塵 紙裏に滲む歌の影の出立
趾 選ばれた読点が採譜される
※詩集『従軍』出版記念会 昭和13年6月15日
加藤愛夫が出征中のため、義弟瀬戸正三を囲み、旭川の北海ホテルで、当時、鈴木政輝のもとに身を寄せていた千家宏(千家元麿の子)をまじえて催された。