詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

■坂多瑩子さんの新詩集『物語はおしゃべりより早く、汽車に乗って』(書肆子午線 2023年1月28日)

■坂多瑩子さんの新詩集『物語はおしゃべりより早く、汽車に乗って』(書肆子午線 2023年1月28日)
 「チャリチャリ音」、「ヘリコプター」、「ろくろ首」、「芋虫」などの名詞や「配る」という動詞など、それぞれの作品に与えられた詩想のイメージが、例えば一つのフレーズを象徴的に用い展開する楽曲のように、2次元の譜面からだんだん立ち昇って立体を帯び、3次元、4次元へ無機物から有機物へ、異化への亀裂を育て、非日常へ詩法に導かれるような凄い言語体験。
 表題作「物語はおしゃべりより早く、汽車に乗って」で、チッキ(国鉄時代にあった、駅で預かった荷物を別の駅まで旅客列車で運ぶサービス)という言葉を初めて知りました。「ハハカラチチ チチカラハハ」「チッキと対であたしが手渡されていく夏休み」…夏休みに母のもとから父に会いに行く距離。冷めているように振る舞うしかなかったのが、慣れてしまうしかなかったのかもしれない、作品の深い心の肌触りが核心のようにあり、物語は既にずっと前に(早くに)遠くへ行ってしまっていて、汽車に乗っても、言葉は追いつけない。「そう」とか「ああ」しか言えない。
 ほとんどが見開き2ページ(たまに3ページ)で脚の長い行分けの詩形ですが、7ページに及ぶ「夏の終わりに父」(P90)では、前述の「物語はおしゃべりより早く、汽車に乗って」で夏休みに会っていた父が亡くなった夏のことが書かれています。「父親があたしの記憶のどのあたりで死んだのか」…後半、「顔のない男」の言う「へい・ゆう」から、『とん平のヘイ・ユウ・ブルース』を想起しますが、この曲も繰り返しのフレーズ展開が特徴的でした。「Hey You, What's your name?」…。名前のない記憶の存在を感じている。現実の物語の早さとは交わらない名づけられない時間の運びを詩は生きる。

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