「廃疾」 柴田望
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―それではご一緒に、想像してみてください
時代になじめない一人の少年 一九三一年(昭和六年)、昭和恐慌の年の事変 仮の国を築く フィクションとイマージュ 土の塀を越えると仮面は剥がれる 子どもは入ってはならない…
満洲国奉天の日本人地区 時代になじめない一人の少年 ノートに詩を書く レンガ造りの宿舎の二階 望遠鏡で夜空を覗く 星のように芯を研ぎ澄ませ 呪われて ばらばらになった言葉が 古代の意味を滲ませ 訣れのように散りばめられている
感染を武器として扱う
細菌部隊のネズミが逃げて
チフスが街じゅうに広がる
満洲医大を辞めた父が
朝から晩まで往診 やがて感染
四十度以上の高熱が一週間続き、
父は死んだ
廃疾の路傍 風に洗われている
意味たちの高らかな笑いから
解き放たれますように
無駄ではなかった
一切を忘れますように…
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・満洲国と阿片の問題を真正面から扱った人気漫画『満州アヘンスクワッド』(原作 門馬司、作画 鹿子)を読み、2008年のNHKスペシャル『調査報告 日本軍と阿片』などからも、阿片とはどういう存在であったか、多くを学ばされます。
満洲で青春時代を過ごし、満洲で敗戦を迎えた安部公房の初期の小説『終りし道の標べに』の主人公は囚われた阿片中毒者であり、彼の存在と思考の動きや過去の記憶が第一、第二、第三のノートという形式に収められます。
安部公房の父浅吉は当時の最先端の医療機関であった満洲医科大学の助教授を辞め、内科医を開業。安部公房は父の助手をしていました。医療従事者として阿片の存在を見つめる機会があったのかもしれません。
『安部公房伝』(安部ねり著•新潮社)に「日本の細菌部隊が逃してしまったネズミから広がったとされる発疹チフスが伝染し始め、浅吉は朝から晩まで往診することになった。」という衝撃的な記載があります。発疹チフスの感染が浅吉の死因となります。
安部公房の『壁』に収められた短編「事業」では、品種改良された大きな食用鼠が工場から逃げ出します。その工場主である事業者は人間を食用加工する機械を「ユートピア」と名づけます。これは満洲のことが書かれているのではないでしょうか。
終戦80年。80年前に満洲で敗戦を迎えた安部公房が何を見て、何を経験し、何を感じ、どう書いたか。『無名詩集』、『終りし道の標べに』、『壁』に込められた言葉が一斉に震えて、様々な景色を呼び出します。
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特別展「安部公房展 21世紀文学の基軸」関連イベント
《安部公房『無名詩集』の詩世界》
8月2日(土)14:00~ 北海道立文学館
詩朗読:柴田望・本間桜子
(安部公房『無名詩集』・柴田望『音もなくいとなむ流れ』より)
演奏:本間桜子(ソプラノ)
馬場悦子(ピアノ伴奏)
曲目:『三月のうた』(作詞 谷川俊太郎 作曲 武満徹)他
北海道立文学館講堂にて ご来場無料
要予約・電話受付 011-511-7655まで



