詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

■松岡真弓さんの詩集『窓の向こう』(NIREPLUS)

■松岡真弓さんの詩集『窓の向こう』(NIREPLUS)に収められた、忘れられない詩篇「五月の朝に」。詩の推敲とは、単に詩をよりよくするための作業ではなく、生と死を扱う、回転する宇宙の息吹を味わい、死んでいった人たちとの記憶と出会う行いであるという、とても大切なことを気づかされました。
 来月発行予定の詩誌「フラジャイル」第23号に詩人・二宮清隆さんによる『窓の向こう』論を掲載します。お楽しみに!!

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■あおい満月詩集『扉のむこうの鏡の声』(文化企画アオサギ)

■あおい満月詩集『扉のむこうの鏡の声』(文化企画アオサギ)に所収の詩篇「詩集」、色や造形の静けさもどう猛さも、自在に泳ぎ紡ぐことのできる水の魔性に魅力され、白紙に言葉が注がれ、赤く染まる一冊の海、ネオン街、気がつけば図書館。微かな潮の匂い、幻視させる知覚のすべてが愛おしい傑作。f:id:loureeds:20250330104029j:image

 

■『詩と思想』2025年4月号に、ソマイア・ラミシュさんとの『詩の檻はない』の活動についての拙稿(「閉塞を通路に変える響き~アフガニスタン女性詩人との今まで、そしてこれから~」)を掲載戴きました。

■『詩と思想』2025年4月号に、ソマイア・ラミシュさんとの『詩の檻はない』の活動についての拙稿(「閉塞を通路に変える響き~アフガニスタン女性詩人との今まで、そしてこれから~」)を掲載戴きました。完成本のほうに一部誤植があり、土曜美術社出版販売様より丁寧なお詫びと、訂正した全文公開の許可を賜りました。恐縮の至りです。こちらへアップさせて戴き、後ほど海外へ向けて英訳も公開させて戴きます。此の度はご高配を賜り、心より感謝申し上げます。

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閉塞を通路に変える響き
アフガニスタン女性詩人との今まで、そしてこれから~

        柴田望

 何を信じるべきか。これは二〇二三年二月にソマイア・ラミシュさんのメッセージを読んだ日から、私がずっと胸に抱えている問いだ。戦後八〇年間、米軍が撤退しない日本に住む私たちのもとに、米軍が撤退したアフガニスタンの詩人から「詩を送ってください」というメッセージが届いた。アフガニスタン国内における「詩作禁止令」への抵抗の連帯のために。本当なのか? 駐日アフガニスタン大使館に問い合わせると英語で「知らない」と言われた。日本アフガニスタン協会へ電話すると、本当のことで、現地では抗議運動も起きているが、日本の詩とアフガニスタンの詩は違うし、報道がすべて正しいわけではないと、松浪さんが丁寧に教えてくださった。しかし日本のニュースには出ておらず、私は勉強不足だった。ウエッブ・アフガン編集長の野口壽一さんから情勢をご教示戴き、野口さんの手引きでソマイア・ラミシュさんとメールのやりとりを重ね、米軍が撤退しない日本に住む私は自分の無知さを恥じた。

 私たちが北海道旭川から年三回発行する詩誌「フラジャイル」の前身は、一九四六年に富田正一主宰により創刊され七十二年間発行が続いた詩誌「青芽」だ。特攻隊を見送る通信兵だった富田正一さんが十八歳で復員し、「これからは心の時代だ、詩を自由に書ける時代だ」と決意し、同級生たちと創刊した。富田さんは小熊秀雄の詩友であった小池栄寿から詩を学んだ。旭川ゆかりの小熊秀雄や小樽の小林多喜二の活躍した九〇年前の日本も詩や小説を自由には書けなかった。少年兵だった富田正一さんの決意が私たちの詩活動の原点だ。表現の自由のために戦うソマイアさんのメッセージを私は無視できない。

 ちょうどその二月頃、私は詩誌「詩の村」などで活躍した北海道の詩人であり優れた編集者でもあった古川善盛を研究していた。資料を読み漁っていた私の手元に一九六五年に江原光太、佐々木逸郎らの編集により〈詩人たちのデモ行進〉として、当時の北海道の詩の派閥を超えて詩人が結集し刊行された『北海道=ヴェトナム詩集Ⅰ』があった。千葉宣一が「ヒューマニズムとセンチメンタリズムとは決定的に違う」と批判した。古川善盛の作品「三滴の血」はそのような批判にはあたらない。ベトナムの民謡をベースに、利権に群がる兵力を蚊の大群に喩え、戦争が何によって引き起こされているのか、その根源を見破る見事な詩篇だ。六〇年代の詩人たちは新聞や雑誌や、開高健ルポルタージュなどを読み、情報を得、ベトナム戦争について、同時代人として議論し、行動した。

 情報とは何か。国によってニュースの視点は大きく異なる。報道もネットもプロパガンダに溢れる。野口さんと私はSNSを通じてソマイアさんの言葉を慎重に伝え、賛同だけではなく様々な意見も戴き、三月を締切に世界から寄せられた百篇程の詩のうち、三十六篇が日本の詩人による作品だった。当初の予定では四月二〇日の世界芸術の日にバームダード(亡命詩人の家)のホームページに作品掲載の予定だったが、それでは勿体ないということで、アンソロジー詩集を発行する運びとなった。多くの方々よりご支援を賜り、タイトルはフランスの詩人セシル・ウムアニさんの詩行から『NO JAIL CAN CONFINE YOUR POEM詩の檻はない』と名づけ、タリバンにカブールが陥落した二年後の二〇二三年八月十五日に刊行することができた。日本の詩人の全作品と、海外の詩人のうち英語で寄せられた詩篇二十一篇を安藤厚氏(北海道大学名誉教授、北海道ポーランド文化協会会長)の翻訳により掲載。同時にフランスペンクラブの主導で、フランスでもアンソロジー詩集刊行の準備を進め、日本語の詩は高橋純氏(小樽商科大学名誉教授、『高田博厚ロマン・ロラン往復書簡 回想録『分水嶺』補遺』(吉夏社)を編訳)に翻訳して戴き、ソマイアさんを通して出版社へ送った。フランス語版『Nulle prison n'enfermera ton poème』はOxybia社より二〇二三年一〇月に刊行された。アフガニスタンの詩人一〇人を含む世界の詩人八十五人の詩が収められた。

 『NO JAIL CAN CONFINE YOUR POEM詩の檻はない』はAmazonの新着(予約)ランキングで詩集部門一位。発行後は日本国内の新聞各紙のみならず、ペルシャ語版のBBCやインデペンド紙でも報道された。八月二十四日には旭川市のまちなかぶんか小屋で発行記念イベントを開催、九月二十五日には一般社団法人日本ペンクラブ獄中作家・人権委員会による支持声明が公式HPに掲載された。十月十五日には横浜市ことぶき協働スペースにて遠藤ヒツジさん、高細玄一さんの尽力により発行記念イベント開催。ここではアフガニスタン地震救援金も集められた。他にも様々な詩のイベントや地元メディア等出演のたびに『詩の檻はない』のことを伝え、SNSでの発信を続けていると、海外から私のもとに問い合わせが来るようになった。アフガニスタンに在住する学生や詩人からも英語やペルシャ語で直接メッセージが届く。私は彼らに聞いた。本当に詩は禁止されているのか? 女性の権利が奪われているのか? すると本当だ、タリバンは酷い、ここは地獄だ等、生々しい返事が返ってきた。日本へ連れて行ってくれと真剣に頼まれたり、結局叶わなかったけれど留学の方法を調べたりした。彼らは皆、カカ・ムラト(中村哲氏)を知っていた。ある日、SNSは気をつけなければならないとソマイアさんに窘められ、今は直接の連絡は控えているが、こうしたやりとりから、アフガニスタン在住の女性詩人、ファルフンダ・シュウラさんの詩篇を受け取り、詩誌「フラジャイル」第十九号(二〇二三年十二月発行号)への掲載が実現した。

 二〇二三年十二月、コトバスラムジャパン(代表 三木悠莉氏、 Jordan A.Y. Smith氏)の招聘によりソマイア・ラミシュさんの来日が実現。十六日に池上会館での全国大会にゲスト出演したソマイアさんは「詩には社会を変える力がある」と発言。十七日は松戸FANCLUBで交流会。十九日横浜市ことぶき協働スペースでのシンポジウムにソマイアさん、佐川亜紀さん、岡和田晃さん、大田美和さんが登壇。詩の朗読や、女性の人権や文化が脅かされている凄惨な状況等について討議された。「自由を失ったら死に等しい」とソマイアさんは語った。二〇二四年一月二十一日、日本時間の午前四時より、フランスペンクラブの主催によるオンラインイベント「アフガニスタンの圧政と闇に立ち向かう世界的ポエトリーナイト」を開催。世界各国五〇人以上の詩人が参加し朗読を披露。日本からはHarukaTunnelさん、二条千河さん、ゆずりはすみれさん、岡和田晃さん、髙野吾朗さん、大田美和さん、野口壽一さん、佐川亜紀さん、森耕さん、元ヤマサキ深ふゆさんが出演。開催にあたり日本ペンクラブ獄中作家・人権委員会委員長中島京子氏より連帯のメッセージを戴いた。このイベントで私は、「タリバンさえも含むすべての人々に、自ら禁じてきたところのおのれ自身の『詩すなわち自由』を求めるように呼び掛ける声とならなければならない」、「政治的権力闘争の道具として利用されてはならない」という高橋純氏からの大切なメッセージを英語で代読し、詩誌「フラジャイル」第二〇号にもこのイベントのレポートとともに掲載した。

 二〇二四年六月にはアンソロジー詩集のオランダ語版が発行された。日本語の『NO JAIL CAN CONFINE YOUR POEM詩の檻はない』初版はおかげ様にて約四百部程が売れ、六万円程の印税額をペイパルでオランダのバームダード(亡命詩人の家)に送金した。二〇二四年十一月三日(文化の日)に第二版を発行。詩人四名(小島きみ子さん、林美脉子さん、丁章さん、田中目八さん)の作品を増補した。同日にソマイア・ラミシュさんの日本で初めての訳詩集『私の血管を貫きめぐる、地政学という狂気: madness of geography in my veins』(編訳:岡和田晃、訳:中村菜穂、木暮純、野口壽一、金子明)を発行。二〇篇構成の詩「(私の血管を貫きめぐる、地政学という狂気)」(訳:岡和田晃・木暮純)、アフガニスタン人であるソマイアさんによる村上春樹作品の書評「人生とは一つのメタファーである!—村上春樹海辺のカフカ』への眼差し」(訳:中村菜穂)、二〇二三年十二月来日時のシンポジウムでの質疑応答「レポート: アフガニスタンと日本の詩人による知性対話 言論の自由と女性の地位、社会の解放について」(初出「詩と思想」二〇二四年六月号)、ソマイアさんの略歴(訳:野口壽一・金子明)も収録。ソマイア・ラミシュという詩人の存在が確かに伝わる一冊に仕上がった。十一月九日、『詩の檻はない』が第二十七回日本自費出版文化賞に入選、賞状を戴いた。これまでも朝日新聞などへ詳細な記事で紹介してくださったドットワールド編集長の玉懸光枝氏にまたご取材戴き、十二月にはドットワールドのニュースサイトに記事が掲載され、YouTubeチャンネルで二十五日にライブ配信された(芸術と自由の沈黙に抗うアフガン女性詩人と広がる連帯 『月刊ドットワールドTV』#4)。二〇二五年一月八日には中央大学で、文学部教授の大田美和さんの招きにより、現代詩作家・文芸評論家岡和田晃さんの講演(「文学を通した抵抗の可能性 『ソマイア・ラミシュ詩集』について」)とワークショップが開催された。

 ソマイアさんとの出会いから二年が経とうとしている。皆様からの温かいご支援のおかげで、多くの方にご注目戴ける活動に育った。心より感謝を申し上げたい。活動を始めた当初は理解を得ることが難しかった。二年前にウエッブ・アフガンの野口壽一さんから北海道詩人協会宛に届いた呼び掛けのメールを当時事務局長だった私が執行部に連絡すると、会としては活動できないとすぐに言われた。個人としても活動すべきだと岡和田晃さんに励まされ、本稿の前半に書いた北海道詩人としての想いもあり、個人的に取り組み、七月の理事会で全国から戴いた反響など、進捗を報告した。すると「協会は会員それぞれの考え方がある」、「迷惑なことをするな」、「現地に留まらず亡命をするのがおかしい」、「タリバンはやめなさい、ウクライナをやりなさい」などと叱られた(笑)。私は理事を辞退し、退会を決意した。しかしその一年後に発行された『北海道詩集』二〇二四年版の詩集評では『詩の檻はない』が絶賛されていた。行動は見られており、理解を得るには時間と努力が必要と学んだ。別なある組織からも、最年少の私が外で余計な仕事を増やしているように見られ(これらの場では四〇代後半の私が最年少層であり、深刻な閉塞状態にある。それぞれ最後の働きとして、秋のイベントを着物姿で全力で盛り上げました…)、文化事業(賞)の実務の会なので仕方がないが、そこでの学びを生かしたいと私が決意したことは、いつか理解してもらえると信じる。その賞の最終選考では、社会的な主題を扱う詩集の評価については、単なる批判やプロパガンダではない、自己批判性を持ち、批判する側、される側の両方の視点に詩が届くことが重要視される。

 『詩の檻はない』の活動も、ご参加戴いた皆さんそれぞれに想いはある。私の理解としては勧善懲悪のような抗議運動ではなく、世界について考え、詩のあり方について海外の詩人と共に考える場になっていると思う。ソマイアさんは前政権をも批判し、災厄をもたらしたのはアメリカだと明確に発言している。問題はかなり複雑で東西に単純化できない。

 劉暁波やアレクセイ・ナワリヌイが獄中で命を落とす世界。政府に都合の悪い人物がいつの間にか不審者に殺される、公開処刑も行われている国で、少女たちが声を上げ、女性専用の刑務所へ収監される、海の向こうの現実。米軍が撤退していない日本で正しい情報を得て、理解するのは難しい。二〇二五年一月、ノーベル平和賞受賞者マララ・ユスフザイさんが、イスラマバードで開かれた国際会議で「女性を人とみなしていない」とアフガニスタンタリバン暫定政権を強く非難した。嬉しいが報道を妄信するのではなく、私たちは実際にその国の詩人たちと出会い、彼らの目を見て言葉に耳を傾け、詩を送り合う。彼ら本人も家族も危険に曝されている。そして日本の先輩詩人たちの詩を学び想像する。文学が世界を認識し、変革を提起した時代がかつてあった。日本の詩人として、何を信じるか自分で選ぶ。

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掲載:『詩と思想』2025年4月号(土曜美術社出版販売

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鎌田東二先生の新刊『日本人の死生観Ⅰ・霊性の思想史』、『日本人の死生観Ⅱ・霊性の個人史』(作品社)

安部公房三島由紀夫の比較から始まる鎌田東二先生の新刊『日本人の死生観Ⅰ・霊性の思想史』、『日本人の死生観Ⅱ・霊性の個人史』(作品社)。現実を信じていない仮面同士の共感…詩誌「フラジャイル」第20号に収録の鎌田先生の旭川東鷹栖でのご講演の一部が掲載。誠にありがとうございます。

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創部100周年記念の旭川東高等学校音楽部第32回定期演奏会、和合亮一氏の作詩、田畠佑一氏の作曲・指揮による「心に浮かぶ雲に」の委嘱初演、歴史的瞬間でした。

創部100周年記念の旭川東高等学校音楽部第32回定期演奏会和合亮一氏の作詩、田畠佑一氏の作曲・指揮による「心に浮かぶ雲に」の委嘱初演、歴史的瞬間でした。現役・OBも参加の大勢の歌声なのに、一つの意識が語りかけてくるような壮絶な瞬間が、何度も訪れました。激しく感動しています。

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■「美術ペン」173号、大島龍さんが「オオカミの旅⑤」の中で、中村妙子氏のご訃報、「フラジャイル」第21号の佐波ルイさんの詩篇「ふわっふわっている」について

■「美術ペン」173号、大島龍さんが「オオカミの旅⑤」の中で、中村妙子氏のご訃報、「フラジャイル」第21号の佐波ルイさんの詩篇「ふわっふわっている」について言及されています。
「〈わたしってご臨終なの ? 〉 と きいてみた/ぎんいろ鼠 は しずかにわらう」(「ふわっふわっている」)

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■小島きみ子さんの個人誌「詩と散文のはざまに」No.3

■小島きみ子さんの個人誌「詩と散文のはざまに」No.3
「フラジャイル」第20号、『詩の檻はない』第二版にご寄稿戴いた詩篇「(nostalgia )and(compassion)」、「阿吽」に掲載の詩篇「ある日の、ある朝」を拝読。「鳥の羽根が集う場所」を目指し、多次元体である人類の「虚」を知覚する言葉の経験。

「国境を越えて人間に殺されている 人間のあなた方を助けに行くためには鳥の羽根が集う場所を目指さなくてはなりません 鳥の羽根が集う場所とは 鳥がことばの羽根を差し伸べる場所」(小島きみ子「(nostalgia )and(compassion)」より)

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