詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

「小樽詩話会 55周年記念号」(2018年12月15日発行)より 「顔 Ⅳ」 柴田望

「小樽詩話会 55周年記念号」(2018年12月15日発行)より
*

「顔 Ⅳ」 柴田望
*

はじめは苦しくても 表情はやがておさまる

珠の中で大の字のまま 海へ転がり落ちて
逆さになる訓練の水面に 眩しく反射していて 
灰に溶ける覚悟だった――

水から木へ 木から火へ 火から土へ 土から金が
何もない海へ滲む そこらじゅう破片が漂う

歪んで溶けて焼け跡の夜

(破れた軍服を真新しい制服に着替える)

特別さが当然であった時代が過ぎて 神は人に目醒めて
間違いであったと嘆くことも 昨日までの敵にへつらうこともせず
眦は風を懐かしんでいる 閃光が沈むまでの間に 龍の尾を密かに攫んだ

生還者たちが海へ 死者たちが空へ 押し寄せる 臨界点で
刀の貌 大きく弧をえがいて 敵艦に似せた木枠を狙う
訓練で捕らえた風を 鋼の切れ味に巻きこむ

はじめは苦しくても 《無》は調和している 
《雙》は呼吸している
《英》を経た歳月 
《信》を越えた場所で 号令が叫ぶ 鎮まる

自由がもてはやされる 型を覚えない限り 
羽ばたくことはできないのに

歪んで溶けた暁を背に 
(破れた軍服を真新しい制服に着替える)
人は一人である 軍は人の塊である 群れは表情を持つ

面の奥に潜む 一糸乱れぬ呼吸である 道場に陽は逆さに差す

あなたは厳しい師ではなかったのに 弟子たちを達人に鍛えた
視線は剣に 眩しく反射している 子どもたちが真似ている 凛とした背中

f:id:loureeds:20181222084927j:plain

f:id:loureeds:20181222084902j:plain

f:id:loureeds:20181222085005j:plain

f:id:loureeds:20181222085019j:plain