詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

花団地  柴田望  2019-1-24.

花団地
  
  

水ガ迫ッテキタ
白服ノ男女ガ選ブ
規則的ニ並ブベッドニ横タワル
ドノ額ニテープヲ貼ルカ
作業ハ無言デ行ワレル
イツモノゴトク静カニ眠ッテイル
テープヲ貼ッタ額ハ連レダセナイ
何モ貼ラレテイナイ額ダケヲ
「大丈夫デスカ」ユックリ起コス
空白ノ温モリヲ背ニ
白服ガツキソイ 車へ逃ゲル
点滴ノ管ニ守ラレテイル
イツノマニカテープヲ貼ラレテシマッタ
イクツモノ額ノ呼吸ヲ背二
水ガ訪レル前ニ デキルダケ高イ所へ
何事モナカッタカノヨウニ
横タワル次ノ枕ヘ

救援物質ガ大量ニ届ク
ショッピングモールノソウコヘ
全国カラ ヒッキリナシ
食料ヤ毛布、着ル物、イラナイ物、ヤマホド
届イタ後ノコトマデ考エテイナイ
人手ガ足リナイ 受ケ入レニヤットデ
被災者ニハゼンゼン行キ渡ラナイ
救援物質ニマギレテ 消費期限切レヤ
大量ノ廃棄物ガ匿名デ送ラレテクル
アル国ノ輸送船カラ 水ガヘリコプターデ届ク
両国ニトッテハ事実ガ優先 
ソノタメニ幾人モノ迷彩服ガ出動シ
公園デシーホークノ到着ヲ待ツ
水ノハイッタ巨大ナ袋ガ 恐ロシイ速度デ
空中カラ爆弾ノゴトク投下サレル
翌日ノ新聞 脚色サレタ記事ノ写真 
アリガトウゴザイマス 感謝ノ敬礼シツツ 
ドコヘ棄テタライイカ 途方ニ暮レテイル

読まれたことのない
分厚い書類で約束したはず
村は地図から消される
あんたたちは当時そこに居ない
してきたことを履歴書に書き
自慢げに話す者もあるが
ほとんどは口を割らない  
男たちは故郷へ環る
四年目の春 掘る土もそろそろなくなって
イノシシやタヌキが巣食う
誰も知らない場所が
知らないうちに立入禁止
《蒸発山》は公表されない
土に籠められた祈りは
天に昇らせるしかない
元の土や草木はどこかへ運ぶ
どこかは山になっている
作業は一日にさんじかん
遊んでるようなもの 給料は高い
草刈機とチェーンソーで裸にして
村ぜんたいを二〇センチ掘る
へこんだ村に新しい土を被せる
頭から爪先まで粉塵を遮蔽
男たちは集う
銀行つぶれて駄目になった土工
刺青のある人たち

花団地では 
お隣とうちの間には 
透きとおる壁いちまい 
光も音もつつぬけ 
あいさつしたり
ちょっと荷物を預かるときも便利でした

花団地では 
花や野菜を作るのが常で 
子どもたちは雑草を抜いた 
トマトやお芋や獅子唐を分けて頂き 
子どもたちはおじきした 
どうかお気になさらないで 
うちも食べてもらって助かっているの

花団地は 
大きな津波に呑まれて 
瓦礫になってしまった 
だがあの透きとおる美しい壁は
もともと目には見えないので 
決して朽ちることがない

(生きのこった人たちは小学校の体育館で 
 壁のない隣どうし寝泊りしている)

あっという間の出来事で 
うちの家族とお隣は
ぜんぜん気づかなかったので 
決して荒らされることのない
花団地で 
今日もみんな笑っています

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