詩誌『フラジャイル』公式ブログ

旭川市で戦後72年続く詩誌『青芽』の後継誌。2017年12月に創刊。

■「 楯 」    柴田望

楯              柴田望
 

右と左が争う…

 

右と左の争いを頂点が利用している

三角形が日常のあらゆるレベルで拡散し

さらに大きな地図に飲まれる

右と左の抗争が上部団体に利益をもたらす

左右死角と頂角は協力依存関係にある

先端を包みこむほどの情報の闇に

収まっている限り目立たないが

バランスは乱れる 外域を侵す 

内なる自己と争う…

 

頂点からまっすぐ反対側に

左右どちらからも利益を得ないもう一つの角を想定する 

急速に多角形化して円に近づく

角は偉大で底辺(=フラジャイル)を養う

潰される自覚はなく 中庸を幻視している

棺の数だけ核は生まれる

平面を乗り越え 球体の飛沫で判断を傍受し

記憶の塗装流す 温暖化で広がる海の起源は

ヒトを含むすべての獣の諍いである

 

二〇一七年十一月二十八日

当時高校二年の吉田圭佑さんの詩「O Contradictio」が

新聞の二面にわたり掲載された

(タイトルはラテン語で「矛盾」を表す)

現代の日本でパウンドやネルーダのような長い詩が

新聞をぎっしり満たすのを初めて見た!

ボブ・ディランノーベル賞が報じられたときも

「風に吹かれて」が小さく載っただけだ

政治や株やウィルス感染を報じるための痛みに

争いで利益を生じる対角線上を次元化し

その日、百万人の読者を戦慄させた

若き吉田圭佑さんによる絶え間なき越境を

忘れられた世代の詩人たちが励ます

「楯突け、楯突け!」と 

*
2020-02-11.

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