「安部公房の会たより」2020年5月
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☆ 旭川市中央図書館の皆様のご理解と多大なるご尽力のもと、旭川開村130周年記念として、安部公房の展示を行って戴いております。ありがとうございます。現在は図書館休館中であります。展示は6月末迄となっております。もしそこまで休館が延長されれば、もう誰も見ることのできない、幻の展示に・・・。
時代の変わり目に必ずといっていいほど作品が読み返される安部公房にとって、現在、予期せぬ大きな時代の節目が訪れている状況の中、このような無観客の展示が催されているということ自体、怒られるかもしれませんが、一見ユーモラスであると同時に、非常に深刻な状況が似合う作家は世界に唯一人かと、何だか不思議に相応しいようで、誇らしく感じます。感謝の限りです。
今年、映画『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』が公開され・・・映画館も休館のようですが、安部公房は三島由紀夫の「仮面の告白」を、三島由紀夫は安部公房の「他人の顔」を絶賛していた。その理由を、毎日紙や布やウレタンのマスクで顔を覆いつつ、考えております。大量のマスクが消費され、世界中の人々の顔を覆う。命を護る。ますます匿名化していく。アイディンティティを消しなさいという教育がオンラインで行われる。人間らしさとは何か。SFが現実化するように、価値観もどんどん変わっていく。存在とは何か。
仮面を作るに当つて、古典的客観的基準といふものは存在しないし、たとへ存在しても何の役にも立たない。第一、純粋自我がそのやうにして「他」の表徴を生み出すことができるかどうか、論理的な難点が先行するわけである。
— 三島由紀夫「現代小説の三方向」