追悼・渡辺宗子さんの聲
柴田望
「抵抗と批評の精神を詩想に最期まで書けることを祈っています。」功労顕彰への「謝辞」として「詩界通信」92号に掲載された渡辺宗子さんの御言葉。昨年6月のサッポロ・アートラボ〔サラ〕主催の鼎談「文学における普遍性と特殊性」の中でも、渡辺宗子さんは「書くときには、権力に対して挑戦していくことだ」と発言されています。このイベントを収録した詩誌「フラジャイル」10号の巻頭に、渡辺宗子さんの詩篇「雪だるまの地平線」を掲載。出来上がった詩誌は12月20日に発送致しました。21日には届いたはず…12月22日、御家族に看取られ御逝去されたと伺い、胸の張り裂ける深い空白にて、いまだ立ち直れずにおります。
詩人・渡辺宗子さんは昭和9年4月21日福岡県生まれ。昭和55年に詩集『ああ蠣がいっぱい』で北海道詩人協会賞を受賞。永井浩氏によって「求心的な追求をもって人間の背後からその不条理性をのぞこうとしている」と激賞されました。個人誌「弦」は平成4年創刊*、最後の79号が令和3年1月に嵩文彦さん、長屋のり子さんの手によって皆様に届けられました。詩誌の活動の使命は、有名な方の寄稿を戴くことや、詩のグループ間の争いなどではなく、真の創作の場を拓くことであるとお教えくださいました。文学のイベントでいつもお会いし、「あなた、仕事があるんでしょう、こんなことばかりして…」と心配して叱ってくださったこと、宗子さんの朗読の後ろでピアノを弾いたこと、前述の6月も隣の御席で「ほら、あなたも発言しなさい!」と背を押してくださったこと、宗子さんの御聲を忘れません。「地霊の抵抗」と感謝をいつも胸に。
(『詩界通信』94号 2021年4月 日本詩人クラブ)